【徹底解説】なぜ新型スープラはBMWとの共同開発?その理由と背景に迫る

2019年に17年ぶりの復活を遂げた「トヨタ・スープラ(A90型)」。発売前から「次のスープラはBMWとの共同開発らしい」とか「中身はZ4とのウワサがある」などと囁かれており、実際に発表されたときはそれが事実だったと衝撃を受けたクルマ好きも少なくないだろう。

ここではそんなA90型スープラの開発の経緯などを振り返り、あらためてこのクルマがどんな素性を持つものなのかを掘り下げてみよう。

トヨタ・スープラとBMW・Z4共同開発の概要

このA90型スープラとG29型Z4の共同開発のきっかけが生まれたのは2012年のこと。

その前年にトヨタとBMWが技術提携を結んで新世代技術の開発をおこなうことを発表して様々な技術供与などの検討がされていた。

その中から生まれたのが「スポーツカーを作ろう」という企画だった。

新型スープラとBMWの関係について

A90型スープラは、BMWが生産管理しているオーストリアの「マグナ・シュタイア」で製造されている。

プラットフォームをはじめ、ボディやエンジン、トランスミッション、電装品、内装の各部品に至るまで、すべてBMWが製造管理をおこない、完成品としてトヨタに出荷している。

トヨタは実質、輸入と販売をおこなっているのみである。

共同開発に対する世間の反応

発売当初は他社との共同開発によるスープラに拒否反応を示す向きや、遠巻きに様子を見る割合が一定数あったように感じた。
しかししばらくするとその素性の良さがメディアや口コミで広がり、実際に見える部分の共通要素が少ないこともあり、反応は好転していったと見られる。

トヨタがBMWと提携した理由

トヨタは2012年にスバルとの提携によるコンパクトスポーツの「トヨタ・86」を発売。市場の反響から、日本のみでなく世界各国でのスポーツカー需要の高さを実感していた。

一方でBMWは「M1」以降純粋なスポーツカーの開発はおこなっていなかった。

トヨタは86の上位車種の発売を望み、BMWも欧州や北米のマーケットに向けてスポーツカーのジャンルに切り込みたいという要望があり、両社の思惑が一致してプロジェクトがスタートすることになったようだ。

スポーツカー市場の動向と課題

2010年代の市場の傾向としては、一定のスポーツカー需要はあるものの、コストの高さゆえの販売価格の高さから、メインターゲット層は富裕層となっていた。

しかし前世代からのスポーツカー嗜好の客層もあり、手ごろな価格のピュアスポーツを望む声も少なくなかった。

開発コストと生産効率の課題

スポーツカーはそのキャラクター上、大衆車と比べるとどうしてもニッチなマーケットになってしまうため、コストを吸収する販売台数は見込めない。

そのうえ、走りを優先させると高性能なメカニズムが必要になり、専用部品を製造するコストが掛かってしまう。結果として車両価格を抑えるのが難しい。

技術面でのメリット

技術面では、メーカー全体に貢献する可能性は少なくない。

スポーツカーは特殊なジャンルのために特殊な技術が育っていると思われがちだが、メーカー全体で考えると、スポーツカーの開発で培った技術が高級車やミニバン、コンパクトカーなどに活用される例も少なくない。

ブランドイメージへの影響

メーカーのイメージの面でも、ラインナップの中にスポーツカーを擁しているというのはメリットがある。

これはレース活動と似ている部分もあるが、まず技術の高さをアピールしやすい。

そして遊び心を忘れていないという、ロマン性に反応する部分に訴求できるため、客単価の高い富裕層の確保も期待できる。

共同開発の経緯

では、共同開発に至る経緯に着目して見ていこう

トヨタとBMWの提携の歴史

トヨタとBMWの提携の根幹は環境技術の共同研究である。

今後ますます状況が厳しくなる環境対応について、両社の共同研究を解決の一助としていこうという狙いだと思われる。

まずBMWはトヨタに対し、最新の環境対応技術を盛り込んだ欧州市場向けの中排気量ディーゼルエンジンを提供。

その後スポーツカー開発の協業でスープラとZ4を発売。2023年にはトヨタの水素技術を活用したFCEV(燃料電池車)の「BMW iX5 Hydrogen」の開発を発表した。

新型スープラとBMW Z4の開発プロセス

スープラとZ4の共同プロジェクトのスタート時点では、まだどんな車種にするかも定まっていない状態だったようだ。

トヨタ側の選択肢にはスープラのプランがあったようだが、まずはスポーツカーのイメージリーダーであるポルシェに負けないピュアスポーツを生み出すというテーマをトヨタ側から求める形でスタートした。

開発の主体はBMW側で、お互いにノウハウを持ち寄り協議する形で開発が進められた。当初はBEVやPHEVも視野に入っていたが、テーマに沿うなら重量がかさむ電動化はナシ。BMWの有力なリソースを活用することと、スープラを作るなら譲れない条件である直6のFRという条件が合致して、スープラとZ4の共同開発というルートが開けた。

両社の役割分担と協力体制

BMWは開発環境の提供とスポーツカーを作る上で必要な技術の提案をおこなう。トヨタも同様にクルマを作り上げるための技術供与や提案をおこない、ある程度の下地ができた段階でプロジェクトを両社で区切り、開発の仕上げをおこなうという流れになった。

プラットフォームの共有

クルマのベースとなるプラットフォームについて見ていこう。

プラットフォームの特徴

基本はBMWが開発した「CLAR」プラットフォームで、スチール、アルミニウム、およびオプションのカーボンファイバーを組み込んだモジュラー型。

最大の特徴はスポーツカーの走りの特性を決定づける「ホイールベース・トレッド比(W/T)」を、黄金比といわれる1.6以下に設定したこと。それに伴い、乗員構成は2シーターとなった。

2シーターに割り切ったことでエンジン搭載位置に自由度が生まれ、重量配分は理想値といわれる50:50を実現している。

車体構造とサスペンション設計

オープンボディで充分な剛性を確保する設計としたことで、クーペボディのスープラではレクサス・LFAを上回るボディ剛性を獲得。

サスペンションに関してはピュアスポーツだからと特別な設計にせず、BMWが熟成させてきた前マクファーソンストラット/後マルチリンクという構成を採用する。

ダンパーユニットは減衰を電子制御でおこなう方式。

軽量化と剛性バランスの追求

シャーシの各部で素材や構成を多重に組み合わせ、剛性と柔軟性、そして低重心化を狙った設計。剛性感のあるしなやかなハンドリングを実現している。

外板も鋼板、アルミ、樹脂と素材を使い分け、軽量化と低重心化を追求している。

エンジンとパワートレーン

動力性能も世界一級レベルを狙い、BMW性の中で最適のユニットが選ばれている。

BMW由来のエンジンを採用した理由

エンジンの開発コストは車体全体で見てもかなりのウエイトを占めている。

前述のようにスープラにとって直列6気筒エンジンは外せない要素だが、手持ちのハイパワー直6ユニットは設計の古い2JZしかなく、環境対応などを考えると手間が掛かる。

その点BMWには有力な直6ユニットが存在するので、シャーシとのマッチングも考慮してそちらを選択したようだ。

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直列6気筒と直列4気筒の特性

単純な話をすると、一気筒あたりの排気量が大きいほど燃焼の瞬発力が高いので、トータルの排気量と出力が同じで気筒数が多いものと比べ、パンチのあるエンジンになる。

加えて出力特性とは別に、エンジンの構成部品が少なくできるので、4気筒の方が重量の面で有利となり、全長も短いため、より重心の集中に貢献する。

スープラの場合は4気筒モデルに燃費重視のローパワータイプが用意されているので、ライトユーザーにも訴求できる。

トランスミッションとドライブトレーンの最適化

トランスミッションはZF社製8HP51型を採用。トルクコンバーターと遊星歯車を使用するオーソドックスなATで、3層の遊星歯車の組み合わせで8速を構成する。

後にRZグレードのみに6段MTを追加。トヨタの要望による特注仕様のZF製ミッションだ。

また、VSCにも関連するリヤデフは、電子制御の多版式LSDを採用する(ハイパワーモデルのみ)。

インテリアデザインとテクノロジー

「中身はZ4」と揶揄される事も多いスープラだが、その内装はほとんど独自のデザインが採用されていて、乗り込んだ印象も外観同様にまるで別の車両に仕上がっている。

BMWの資産を活かしたインテリア設計

両車を並べて比較すれば、ステアリングの形状やメーターパネル、エアコンの操作盤などに共通点が見付けられるが、基本のデザインはまったく異なっており、パーツの共用を意識させない仕上がりとなっている。

情報通信技術とユーザーインターフェース

今のクルマには欠かせない通信機能は、ベースにBMW製の通信機を使い、スマホなどで遠隔操作できる機能や、車両の状態を管理できるコネクティッド・サービスも実装。

それに伴い、BMW独自のiDriveコントローラーを装備している。

トヨタ独自の機能と装備

スープラの特筆すべき機能として車両情報記録装置の「Toyota GAZOO Racing Recorder」が挙げられる。
これは運転時の各操作情報や車両角センサーからの情報、GPSデータなどを記録し、後から専用のプレイヤーで再現できるというもの。

後々、ドライビングシミュレーターなどで走行データを元にした対戦なども可能になるようだ。

発売当初は「中身が〜」と受け入れられない声も多数聞かれたが、フタを開けてみれば内外装のデザインはまったく異なり、スープラ独自の路線をきっちりなぞったものに仕上がっていた。

何よりも日本を代表できるような高い素性を有した、ピュアスポーツと呼ぶに相応しいクルマが日本で購入でき、アフターサービスも受けられるという体制を実現してくれたトヨタには感謝の意を表したい。

こうして、トヨタが初めて本格的に欧州の老舗メーカーBMWとタッグを組んで製作されたA90型スープラ。

ピュアスポーツジャンルの王者として君臨するポルシェに負けないクルマを!という目標で両社が技術と情熱を込めて作り上げられた須玉のマシン。まだドライビング未経験だという人はおもしろレンタカーを利用して、その魅力を実感して欲しい。