2021年に2代目となり、車両全体に大きな改変を受けたトヨタ86改めGR86。先代の発表当初は「トヨタが水平対向エンジンをライトウェイトスポーツに搭載?」と衝撃をもって受け止められたのが今も記憶に新しい。
しかしそれから10年近くの時を経て、今やこの水平対向4気筒のボクサーエンジンは、この86シリーズのアイデンティティと言える存在となった感がある。
GR86へのモデルチェンジに伴って排気量が2.0リットルから2.4リットルへ拡大され、形式名もFA20型からFA24型へと変更された。
ここではそのFA24型の水平対向4気筒エンジンにスポットを当てて、その魅力や特徴を掘り下げてみよう。
トヨタ GR86(ZN8)に搭載のFA24型エンジンの魅力と懸念ポイント
スバルが熟成させた水平対向FA型エンジンの特徴
GR86に搭載されるFA24型エンジンは、スバルとトヨタのタッグによって磨かれた、水平対向自然吸気エンジンの決定版だと言われている。
特にベースとなった水平対向4気筒ユニットは、ほとんどスバルの歴史とともに歩んできた、技術の集大成と言っていいものだ。
近年の環境対応への流れでどんどん性能の牙を抜かれている印象のあるスバルのエンジンだが、トヨタ86のプロジェクトにより、再びその水平対向エンジンのアドバンテージを活かす機会に恵まれた。本来持っている水平対向エンジンの最大のメリットは低振動性である。
低振動であることにより、高回転までスムースに回すことが可能となる。それによって高い出力が得られるとともに、魅力的な官能特性も加わるのだ。
クランク軸から同軸上の逆向きに振り分けられたピストンが同時に伸び縮みするため、お互いの慣性力を打ち消し合う。
さらにはコンロッドとクランクの偏芯による2次震動もほとんどゼロにできるため、振動に配慮する必要がないという点が水平対向エンジン最大のメリットだ。
振動がないということは、高回転型のエンジンでは大きなメリットとなる。また、搭載スペースの関係から、エンジン幅には制限がある。
FA型はコンパクトスポーツ向けのエンジンとして開発されているので、幅の制約は大きい。
しかしこのFA24型エンジンを搭載するのは、自然吸気の気持ちよさをコンセプトの主軸に置いたスポーツ志向の車種である。
エンジン幅の制約をメリットに転換して、ショートストロークの高回転高出力エンジンを作り上げた。
そしてその優れた基本性能に加えて、トヨタの誇る燃料噴射テクノロジーの「D-4S」と組み合わされたことで、現代の環境性能にも対応しつつ、さらなる高性能化がもたらされたのである。
その結果、GR86のキャラクターに合った、扱いやすく気持ちのいいエンジンが出来上がったというわけだ。
先代FA20型からの変更点
初代のトヨタ86からGR86にモデルチェンジがおこなわれた際に、エンジンもFA20型からFA24型へと改変がおこなわれた。
最大の変更点は排気量アップだ。
AE86を想起させる86㎜×86㎜というスクエアストロークのFA20は、高回転の気持ちよさをアピールした反面、低回転のトルク特性に難があり、信号スタートなどで気を使うという欠点を指摘されていた。
FA24型では、その欠点を補うべく、排気量アップで低速トルクの補填がおこなわれた。
今のご時世の傾向では、燃費や排ガスクリーン性などを考慮してロングストロークの設計がおこなわれるが、このGR86では官能性能の方を優先させる英断により、ボアを広げるショートストローク方向での排気量アップがおこなわれた。
これにより、FA20型の欠点とされていた低速トルクの不足を補いながら、ショートストローク化による高回転での加速フィールの向上を実現したのである。
このことは時代の流れに逆らうおこないだとも思えるが、その一方ではしっかりとキャラクター付けの強化を実現しており、商品価値は確実に向上していると言える。
それは販売台数が証明していると言っていいだろう。
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力強さが増し、なめらかなトルクフィールも魅力
実際にGR86に乗ってみた際のFA24型エンジンの加速フィーリングはとても魅力的なものに仕上がっていた。
排気量の拡大とエンジン仕様の大幅な見直しにより最大トルクの発生回転域が大きく引き下げられた。それにより低回転からのトルク特性は確実に上がっていて、発進時のクラッチミートで気を使う場面は激減した。
数値ではトルク特性が全域で20%向上したとのことだが、トルクの落ち込みが無くなったおかげか、数値のイメージ以上に力強くなったように思える。
このトルク特性はレブリミットの7500rpmまで淀みなくフラットな加速フィールとして現れており、高回転まで回すのが気持ち良い。
まさに水平対向エンジンの特性をしっかり引き出した結果であろう。
この車体が軽くなったかのような加速フィールは、ライトウェイトスポーツの心臓としては申し分ない特性だと感じられる。
加速のピックアップも向上しており、アイシン製6MTトランスミッションとの組み合わせで小気味いいテンポの変速がおこなえるのも、ドライビングプレジャーの向上にひと役買っている。
また、高速道路などで追い越しを掛ける際に、従来型では1速落とす必要を感じる場面でも、同じギアのままアクセルワークだけで済ませられるようになった。
ボクサーエンジン特有のフィーリングは共通イメージとしてあるものの、FA20型とFA24型は別物と言っていいくらいの出力特性の違いを感じた。
数値上はたった400ccに満たないスープアップだが、出力特性の洗練と合わせて「さすが新型!」と賞賛したいくらいの内容の濃い進化を体感して欲しい。
良いところばかりではない。懸念されるポイントを紹介
FA24エンジンの懸念されるポイントは、大きく分けて2つある。
ひとつめは、、燃費性能があまり良くない点。
ふたつめは、激しいGが掛かるような走行で、油膜切れが起こる可能性がある点。
燃費性能について
ザックリと言ってしまうと、この燃費性能は高回転高出力になった恩恵に対するトレードオフの結果と言える。つまり、FAエンジンの商品力向上においては燃費か性能かの2択を回避できず、性能を優先した結果なのである。
今回のFA20型からFA24型への改変でショートストローク化を図ったことは先に述べた。
ショートストローク化は高回転化には有利だが、その一方でS/V比(燃料室における表面積と容量の比率のこと)が大きく熱効率的に燃費に対してはマイナスに働く。
直噴テクノロジーの「D-4S」によってマシにはなっているものの、WLTCモード燃費12.0km/Lという数値はビハインドだろう。
油膜切れ問題について
主にサーキット走行などの高いGが発生するシチュエーションにおいて、エンジン内の摺道部にカジリを発生させるという声を聞く。
その中でも時計回りのサーキットの右コーナーでの報告例が多く見られることから、オイルストレーナーの吸い口が油面の傾きに対応しきれないせいではないかとという見解があり、有力視されている。
ワンメイクレースではオイルパンに追加するバッフルプレートが許可されたという話もあり、その説の信憑性は高い。
公道では一方向への高Gが長く続くシチュエーションは滅多にないため、そうそう問題が顕在化しないと思われるので心配は不要かと思うが、オーナーの頭には入れておいて欲しい情報だ。
そしてもうひとつ付け加えておきたい事柄がある。
これは懸念点とは言えないが、水平対向エンジンの低重心性をあまり神格化することには異論がある。
確かにシリンダーヘッドが上を向く直列やV型エンジンに比べると、主要コンポーネントが低い位置にあるので、比較的重心が低いことは確かだ。
しかし宣伝文句にあるような、圧倒的な低重心ではないということを述べておきたい。
市販エンジンには、吸気&燃料供給システムやオルタネーターなどの補機類が必須であるので、けっしてバカにできない重量のそれらのユニットは、エンジンの上部に集められ、重心位置を引き上げる。
また、車両への搭載の面では、エンジンだけでなく、ミッションやプロペラシャフトなどのドライブトレーンのトータルで見なくては成立しない。
主に、A/Tミッションとエンジンのオイルパンを最低地上高より上に位置させなくてはならず、そのうえでプロペラシャフトをなるべく直線に配置すると、エンジンの搭載位置は、想像よりも高くなってしまうのである。
まとめ
スペースの大きな制約を抱えている水平対向エンジンを上手く改良し、低回転からの力強いトルク特性と、高回転まで気持ちよく回せる回転フィールという相反する特性を両立してみせたトヨタとスバルの技術開発陣。
その努力の積み重ねと情熱の注入には頭が下がる思いだ。
燃費の面では少々不満はあるものの、このご時世の中でアクセルを踏む楽しさを堪能させてくれるエンジンは貴重だと思う。
EV化の流れに飲み込まれずに今後もしばらく存続し続けて欲しいと願うばかりだ。