86 ZN8のその魅力とは?

トヨタの人気スポーツカー「86」の後継モデルとして2021年10月に登場した「GR86」。前モデルからどのように進化し、どのような特徴を持つのか。そして、どのようなドライバーに向いているのか。本記事では、GR86の詳細なスペックや改良点、そしてその魅力について深く掘り下げていきます。

ZN8の概要

2021年の10月に発売された「GR86」は、2012年に発売された「トヨタ・86」の後継モデルだ。実質的にはビッグマイナーチェンジで、型式名は「ZN6型」から「ZN8型」へ変更された。

そして、販売チャンネルが「トヨタ」から新設スポーツカーブランドの「GR」へと変わり、それに伴って車名も「GR86」となった。GRブランドとしては、2019年に発売の「GRスープラ」、2020年に発売の「GRヤリス」に次いで、3番目のグローバルモデルとなる。

「トヨタ・86」と同様に、「スバル」と共同開発したシャーシ&エンジンなどのコンポーネントを用いて、外装デザインやエンジン、サスペンションの味付けをGR独自のセッティングでおこなわれている。そのため、乗り味は「スバル・BRZ」とは異なる方向性を持っている。 

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ZN8の基本スペック

「GR86」のスペック(車重やタイヤサイズはRZ・6MTのもの)は以下の通り。

  • ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4,265×1,775×1,310mm
  • ホイールベース:2,575mm
  • 車重:1,270kg
  • エンジン:FA24型 2,387cc水平対向4気筒 DOHC 直噴
  • 最高出力:235ps(173kW)/7,000rpm
  • 最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3,700rpm
  • トランスミッション:6段MT /6段AT(E-6AT)
  • タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)225/40R18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)

前モデルから排気量、車体サイズ、重量が少しずつ増加している。

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前モデルからどのように進化した?

気になる前モデルからの変更点を、各要素に分類して見ていこう。

エンジン

「ZN6型」から「ZN8型」へのモデルチェンジで最も大きく変化したのはエンジンの排気量だ。「FA20型」の1,998ccから2,387ccへと拡大され、パワーで28ps、トルクは3.9kgf向上している。

この排気量拡大により全域でトルクを向上。最大トルクの発生回転域を大幅に下げることができたことで「FA20型」の欠点であった低速トルクの不足や、低速から中速域にかけてのトルクの谷を解消している。

日常の発進や、低、中速コーナーの立ち上がり加速がスムーズになり、排気量以上の特性向上を体感できるだろう。ちなみに、内径×行程は「FA20型」の86mm×86mmから90mm×86mmと変更されており、スクエア型からショートストローク型になっている。

そのため、高回転まで滑らかに回るNAエンジンの特性に、さらに磨きがかかっている。排気量はアップしたが、樹脂製インマニなどの採用により全体の重量は「FA20型」とほぼ同じとなっている。

シャーシ・ボディ構造

また、走行性能の点でもしっかりと向上が図られている。骨格となるシャーシは「ZN6型」から継承しているが、ニュルブルクリンク24時間レースへの参戦で得られたデータを元に、効果的な剛性アップを果たしつつ、乗り心地をスポイルしない補強がおこなわれている。

各部の補強や細部の見直しなどによる重量増への対策として、ボンネット、フロントフェンダー、ルーフ天板、ドアパネルの素材をアルミへと変更。トータルで約30kgの増加に留めている。

寸法的にはホイールベースが5mm長くなっていることが目に留まるが、これは走りを詰める目的というよりは、結果的にそうなったと見ていいだろう。全長と全幅は少し大きくなっているが、これもデザインの違いによるものだろう。

全高が「ZN6型」の最終モデルより10mm低くなっているので重心は下がっているが、体感できるほどでは無さそうだ。

トランスミッション

トランスミッションはMT/ATともに大きな構造の変更はおこなわれていないが、素材や設計の見直しが多岐にわたり、性能は別物と言えるほど改善されている。MTについては排気量アップによるトルクアップに応じるためファイナルを4.1へと変更し、ギヤの素材や微細な形状の変更がおこなわれている。

また、前モデルでの「低温時にギヤの入りが硬い」というウイークポイントを解消させるためオイルの粘度を下げている。これに伴い、トルクアップへの対応と併せてギヤの噛み合い方を変えるなど、ほぼすべての部分で評価試験をやり直す手間が掛けられている。

ATはMTと同様にファイナルを3.909へとハイレシオに変更。構造の変更はほぼおこなっていないが、モードのセッティングは大幅に手が加えられている。新型はノーマル/スポーツのモード間の変化を大きく取っている。

スポーツモードでは、コーナーへの進入で積極的にシフトダウンして高めの回転をキープ、加速時にしっかりトルクを使えるようにリセッティングされている。また、VSCやトラックモードなどの姿勢制御プログラムには変更が加えられていないようだ。

シャシー・足回り

足まわりでは、まず18インチへと大径化(RZグレード)されたホイール&タイヤによる変化が大きいだろう。重量は増しているが、路面の接地感が硬質になり、ハンドリングのシャープさが向上している。

バネレートはフロントをアップし、リヤをダウンしている。ダンパーも、バルブ形状やオイルのリセッティングをおこない、初期の動きを改善し、ベースの減衰力を弱めに設定している。この変更により、リヤの接地性を確保しながら全体の挙動を抑え、応答性の高いハンドリングに仕上げている。

車重は「ZN6型」より増しているが、これらのセッティングの効果によりハンドリングの特性はむしろ軽快感が増し、前モデルからのコンセプトであるドリフト時のコントロール性はしっかり感じられる味付けとなっている。それでいて日常使いの乗り心地も向上と、全体的にクオリティアップした印象となっている。

インテリア

インテリアは、乗り込んだ瞬間に全く別のクルマだと感じるほど印象が変わっている。実際に前半分のパーツは、シートを含めてほぼ同じ部品は使われていない。

曲線主体でややポップな印象があった前モデルと比べて、「ZN8型」は直線基調のスッキリとした印象のデザインになり、色使いも含めて大人の雰囲気が感じられるGT風のスタイルになった。ダッシュボードの上部への張り出しがなくなったことで視界の見切りが良くなり、運転のしやすさにも貢献している。

シートは構造から見直され、左右サポート部の張り出しは控えめだが、サポート性は十分に確保されている。着座状態でのアイポイントもやや下がった印象だ。また、メインのメーターがアナログから一体式の液晶パネルとなり、この部分でも印象が大きく変わった。

安全装備など

トヨタ車では初めて、スバルが開発した「アイサイト」を装備した。プリクラッシュセーフティ、後退時ブレーキアシスト、AT誤発進抑制制御/AT誤後退抑制制御などのセーフティ機能と、全車速追従機能付クルーズコントロールを備える。

安全面の安心感に加えて、運転支援機能によるイージードライビングも魅力だ。

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ZN8、どのような人におすすめか

「ZN8型」としてあらゆる面で性能と価値が向上した「GR86」だが、どんな人に向いているのだろうか。スポーツ走行に興味があり、普段乗りも快適にこなしたいという人が主なターゲットとなるだろう。

逆に、燃費や使い勝手を最優先する人や、3人以上で乗車する機会が多い人にはおすすめしない。そのようなタイプには、燃費の数字や、後席のアクセスや積載量、乗り心地などに不満が出るだろう。

しかし、スポーツ走行に意識を向けると、高速道路を安全に快適にハイペースで移動できるし、山道でも高い限界性能を発揮してくれるので、エキサイティングな走りが堪能できる。それでいて、ちょっとした買い物や通勤でも大きな不満が出ず、普段使いも快適にこなせる点が魅力だろう。

この時代に、NAで高回転まで回して楽しめるリーズナブルな車は希少なので、興味を持った人はその気持ちを大切にしてほしい。前モデルの「トヨタ・86」は低年式車ほど価格が下がり、かなりお手軽に購入できるようになってきたが、2021年から発売の「GR86」に関してはまだまだ高値で取引されている。

最新モデルは一時的な受注停止の影響で、品薄状態が続いており、すぐに入手するのが難しい状況だ。その中でも試乗して魅力を確認したいと考える人は少なくないだろう。

おもしろレンタカーでは「GR86」の様々な仕様のレンタル車両が用意されているので、思い立った次の日にでもその走りを味わうことが可能となっている。前モデルの「トヨタ・86」もラインナップされているので、同じ日に乗り比べてその違いをチェックするということも可能だ。まずはホームページをチェックしてほしい。