「スバル・WRX」は、ラリーのトップカテゴリーであるWRC(世界ラリー選手権)で活躍してきたスバルが、熟成を重ねてきたAWD・ハイパフォーマンスカーである。
ここではその「WRX」について少し掘り下げてみたい。
スポーツカーとセダンの完璧な融合
「スバル・WRX」は、Cセグメントのミドルサイズ車「インプレッサ」から派生したモデル。
以前はインプレッサのいちグレードだったが、インプレッサから独立し「WRX」というひとつの車種となった。
インプレッサから独立したモデルへの変遷
「WRX」がインプレッサから独立したのは2014年で、インプレッサの世代で言えば4代目モデルにあたる。インプレッサに「WRX」のグレードが生まれたのは、1992年に発売の初代モデルだ。
「WRX」とは、「World Rally Championship」のWRと、過去のスポーツグレードで採用されていた「RX」を組み合わせたもので、ラリーで戦うWRカーのイメージを担うモデルである。インプレッサ以前はレガシィでラリーに参戦しており、そのときのラリーを象徴するグレードは「RS」。
初代から代々「WRX」グレードはリリースされ続けており、エンジンをはじめ、ボディや足まわり、駆動系などに、ラリーでの改良の成果がフィードバックされ、熟成が重ねられて戦闘力が向上している。エンジンは一貫して水平対向4気筒DOHCターボの「EJ20」の高出力版を搭載し、同クラスで随一の動力性能を誇る。
発売から2年後の1994年には、WRC参戦のためのホモロゲーションモデルである「WRX・STI」が発売され、ライバルの「三菱・ランサーエボリューション」と性能競争を繰り広げてきた。2011年に4代目へのモデルチェンジがおこなわれたが、WRX系のグレードは3代目ベースのまま販売を継続。
2014年の新モデル「レヴォーグ」の発売を機に、「WRX」がインプレッサから独立して単独のモデルとなる。バリエーションは新開発の「FA20型」エンジンを搭載する「WRX・S4」と、インプレッサからの伝統を汲む「EJ20型」エンジンを搭載する「WRX・STI」の2本立てとなるが、ここでは「S4」を中心に紹介していく。
スポーティさと実用性のバランスの良さが特徴
「スバル・WRX」はインプレッサから独立し、レヴォーグと共通のプラットフォームを持つセダンバージョンという位置づけとなった。新たに開発された「スバル・グローバル・プラットフォーム」を採用することにより、居住性と走りの良さが大幅に引き上げられた。
そこに長年培ってきたラリー由来のAWDの技術が加えられ、国産車の中で随一の走りのポテンシャルを備えつつ、日常の使い勝手も不満のないレベルで併せ持つという贅沢な特性を持ったクルマに仕上がっている。
WRXのエンジンと走行性能
「スバル・WRX」の特色はなんと言ってもその走行性能の高さにある。その高い走行性能の中心にある「ボクサー」エンジンについて少し掘り下げていこう。
水平対向エンジンの特徴と魅力
今やスバル車の象徴とも言える水平対向レイアウトの「ボクサー」エンジンの特徴はいくつか挙げられるが、代表的なのは以下の3つだろう。
- 低重心化
- 左右シンメトリーなレイアウト
- 振動が少ないなめらかな回転
水平対向レイアウトはクランク軸の真横にシリンダーブロックが位置する構造のため、エンジンの重心は、他のレイアウトに比べて最も低くなる構造となっている。実際にはオイルパンやターボ、その他の補機類の都合もあり、理想的な重心位置に設定することは難しいが、それでも低い重心は走行性能の向上に大きく寄与する。
そして、もうひとつスバルがアピールする水平対向のメリットは、左右対称のレイアウトが可能になるという点だ。重量配分が左右対称になることで、4輪すべてにバランス良く荷重が掛けられる。これについてはV6やV8などのV型エンジンでも同様だが、低重心化と併せて「ボクサー」エンジンのメリットとなっている。
水平対向レイアウトでは、左右に水平にピストンが配置されるため、燃焼や慣性による応力が打ち消し合い、1次振動は理論的にゼロとなる。振動が少ないという点はストレス無く高回転までフケ上がっていくフィーリングにつながり、ドライバーがクルマを操ることにおける満足度に大きく貢献する。
シンメトリカルAWDシステムの利点
前述のように左右対称のレイアウトによって4輪への加重の偏りが最少に抑えられるので、左右のコーナーが同じ感覚で攻められることに加え、直進安定性も向上するため、車両全体のスタビリティが高く保てる。
これはグリップが確保されている状況よりもグリップが失われた際の挙動に顕著に表れる。
「WRX」だけを運転していると実感は薄いかもしれないが、左右対称でない車に乗り換えたとき、その違いを強く感じるだろう。
サーキット走行から日常使用まで対応
「スバル・WRX」は世界的に見てもかなり高いレベルの走行性能のポテンシャルを秘めている。そのため、素の状態でサーキットに持ち込んだとしても充分に楽しめるだろう。
むしろ予想を上回るレベルで走行できてしまい、さらに上のレベルを求めたくなってしまうかもしれない。それでいて、普段の買い物や家族4人でのレジャーにも(足回りの硬さを許容できれば)、日常の使い勝手にストレスはない。
さすがに燃費はエコカーに比べて見劣りする数値だが、その性能の高さを考えたら十分に健闘していると言えるだろう。
WRXの最先端装備
WRXはその高い走行性能だけでなく、最新の技術を駆使した装備も注目されている。特に、運転支援システム「アイサイト」に代表される先進技術が搭載されていることで、安全性や快適性が大幅に向上している。
アイサイトによる先進的な運転支援機能
「スバル・WRX」(VA系)では、一部グレードを除き、TVのCMでもお馴染みの、スバルが誇るアクティブセーフティ&運転支援機能「アイサイト(Ver.3)」を搭載している。
「アイサイト」はスバル独自のステレオカメラを用いた周囲の状況認識&車両制御システムの総称で、技術と使い勝手が他メーカーのシステムよりも優れているという評価もある。機能は以下の通り。
- プリクラッシュブレーキ
- 全車速追従機能付クルーズコントロール
- AT誤発進抑制制御
- 車線逸脱警報・ふらつき警報機能
- 先行車発進お知らせ
主軸のプリクラッシュブレーキは前バージョンのVer.2で完全停止が実現。最高の安全機能としてアピールされている。また、2017年のマイナーチェンジで「アイサイト・ツーリングアシスト」が登場。
全車速域でアクセル/ブレーキ/ステアリングの操作を自動でアシストする機能が加えられ、「後退時自動ブレーキシステム」と「アイサイトアシストモニター」も追加された。
快適性を高める内装と装備の詳細
「WRX」は「BMW・3シリーズ」や「アウディ・A4」などとも競合できるクオリティ目標を掲げて開発されたそうで、室内の装備も充実化が図られている。
シートは10箇所の調整が電動でおこなえるパワーシートを採用。乗車時に座面が後退する機能やシートヒーター、ポジションメモリーなどを備えるなど、高級車に引けを取らない充実度となっている。
ダッシュボード中央には5.9インチのマルチファンクションディスプレイを装備。燃費やターボの過給圧、運転支援システムの作動状態などの情報が表示される。スポーツ系のモデルだが電磁ブレーキを採用し、使い勝手のストレスを軽減する装備にも抜かりはない。
WRXグレード別の魅力を比較
WRXは「S4」と「STI」の2つのグレードに分かれており、それぞれ異なる魅力を持っている。ここでは、エンジンやトランスミッションの違いを中心に、両者の特徴を比較していく。
WRX S4とWRX STIの主な違い
「WRX」には「S4」と「STI」の2本の柱があり、それぞれ明確に方向性の違いが打ち出されている。
主な違いはエンジンとトランスミッションで、仕様は下記の通り。
車種 | 搭載エンジン | トランスミッション |
S4 | FA20DIT型・1998cc直噴ターボ | スポーツリニアトロニックCVT |
STI | EJ207型・1994ccターボ | 6MT |
エンジンは同じ2リットルクラスのハイパワーターボだが、その性格はかなり異なる。
「FA20DIT型」は86×86㎜のボア×ストロークを持つ筒内直噴式のツインスクロール・ターボという仕様で、環境性能を主眼に開発された「FB型」を高出力・高負荷に耐えるよう再設計したもの。燃費と出力の両立を図っている。
出力は221kW(300PS)を5600rpmで発生。トルクは400N·m (40.8kgf·m)を2000〜4800rpmで発生する特性。
一方の「EJ207型」エンジンは1988年からずっとスバル車の主軸を担っていた長寿のユニットで、多岐にわたる改良が加えられてきた結果、初代とは基本箇所の寸法と部品のごく一部を共用するのみというほどに変化を遂げている。
ラリーでの戦績を支えてきたユニットであることから、STIの名を冠するモデルに外せない存在と考えるマニアは多い。ボア×ストロークは92×75mmのショートストロークタイプで、中高回転を得意とする特性。出力は227kW(308PS)を6700rpmで発生。トルクは422N·m (43.0kgf·m)を4400rpmで発生する。
ザックリ言うと、「FA20DIT型」がフラットトルク型で低回転から扱いやすく燃費性能も良い。対する「EJ207型」は太いトルクを中回転域から発生させる中高回転型で、その特性により強烈な加速が印象的なエンジンとなっている。
そして搭載するトランスミッションの違いも大きなポイントだ。
「S4」はスバルが開発をおこなった「スポーツリニアトロニックCVT」を装備。無段変速式のCVT型ATミッションで、その名の通りにリニアなレスポンスと高トルクに耐える強度を併せ持っている。
「STI」は先代の「インプレッサ・WRX・STI」から引き継ぐ6速MTを装備している。やや過激な特性のエンジンと共に、クルマを操る手応えをより感じたい人に向けたハードな構成となっている。
中古車市場価格
2024年11月現在の中古車の相場は下記の通り。
- 「S4」 130万円〜350万円
- 「STI」 250万円〜500万円超
「S4」の低年式車は100万円台〜と、性能を考えるとかなりのバーゲンプライスに感じる価格。年式が上がるにつれて相場価格も上がるが、素のグレードは上限が300万円程度で、それを越えるレンジの個体は「STIスポーツアイサイト」などの限定車がほとんど。
「STI」については全体的に「S4」より100万円ほど高い印象だ。おそらくインプレッサから綿々と続く「STI」のネームバリューと硬派な構成が支持されている要因であろうと思われる。
また、400万円を越える個体が多いのは、「STI」に搭載される伝統の「EJ20型」エンジンの生産が2019年で打ち切られたことを受けての影響が大きいようで、「もう手に入らない」というプレミア性が価格に載った結果、2019年以降の個体が軒並み値上がっている。
今では「レボーグ」にもホットバージョンが追加されたりと、アツい走りを求めるタイプ向きの選択肢はある程度確保されているが、日産で言うところの「スカイライン」の冠が取れて単独モデルとなって価格的にも振り切れた感のある「GT-R」と同様に、「スバル・WRX」もハイパフォーマンスモデル専用の構成として、スバルでは初めて振り切れたモデルと言える。
実際の走りもその狙いどおり、最高水準のパフォーマンスを発揮するポテンシャルを秘めている。
そんなスバルの技術の結晶と言える「スバル・WRX」の走りが気になるという人は、レンタルで思いっきりその走りを堪能できる「おもしろレンタカー」を利用してみてほしい。せっかくなので、スバルが誇る「アイサイト」の実力も確かめてみよう。