マツダ・RX-8は、4人がしっかりと長距離の移動に耐えられる居住空間を持つ4ドアクーペだ。そして、その利便性に加えてマツダのロータリーエンジン搭載モデル「RX」シリーズの名を受け継ぐのにふさわしいスポーツ性能を持ち合わせていることが、この車種を唯一無二の存在にしている所以である。
そうした優れた素質を持ち、マツダの名車リストに名を連ねる「RX-8」だが、今の中古車相場はかなりお買い得なプライスが付いている。そのため、「実は憧れていた」あるいは「気になっていた」という人の食指が動き、「その価格なら……」と購入に向く流れが垣間見えている。
しかしその一方では、Web上のブログやSNSなどの口コミで「RX-8(を購入するの)はやめておけ」という声をちょくちょく見掛ける。実際に検索で「RX-8」と入力すると、予測変換で「やめとけ」というワードが現れることもある。
そのことを踏まえて考えると、お買い得のプライスにも合点がいく気もするが、その「やめとけ」という理由については少々の先入観による誤解が混じっているようにも感じる。
ここでは「RX-8」の購入について注意喚起する理由を掘り下げ、本当に「RX-8」を買うべきかどうかを検討していこう。
「RX-8やめとけ」と言われる理由は?
巷の情報を調査してみたところ、主な理由は下記の項目に集約されそうだ。
ロータリーエンジンは扱いが難しい
具体的には、「オイル管理がシビア」、「カーボンが溜まってブローすることがある」、「シール類の寿命が短い」といったもの。
ロータリーエンジンは、一般的なレシプロエンジンとは異なる構造を持ち、1967年にマツダが市販車に初めて搭載した当初、「性能は素晴らしいが壊れやすい」と評され、その印象がしばらく残った経緯がある。
その印象が、ロータリーエンジンを食わず嫌いしている層を中心に未だに続いているようにも感じられる。
燃費が悪い
ロータリーエンジンは、レシプロエンジンに比べて少ない排気量で同等の出力が得られ、スムーズに高回転まで回るという魅力がある反面、その構造上エネルギー効率を上げられず、高燃費な特性を得るには不向きとされている。
実際に初代のRX-7(SA22C型)では実際の燃費が4km/Lと、大排気量の輸入車並みという評判だった。それから20年以上が経過して「RX-8」が発売され、2ローターの系譜を受け継いだエンジンは「13B-MSP」へと進化し、さすがに燃費は向上したが、高速で10km/Lいけば良い方という数値だった。
そして、今では燃費の良いクルマがもてはやされる時代に入っているため、余計その燃費性能がクローズアップされてしまうだろう。
日本の誇るロータリーエンジン搭載のピュアスポーツ車種「マツダ・RX-7」。1978年に登場した初代のSA22C型に始まり、2代目のFC3S型を経て、RX-7シリーズとしては最後のモデルとなった3代目のFD3S型へと代を重ね、国産唯一のロー[…]
期待すると裏切られる
前述のように「RX-8」は大人4人をしっかり収めるパッケージが特色となっているが、同じ車格の車種の中では5人乗車が前提の4ドアセダンと比較するとさすがに狭く感じてしまう。
また、鳴り物入りで投入された新世代型エンジンも、先代の「FD3S型・RX-7」と比べると物足りなさを感じてしまうという声もある。そして、乗り味についても良くない評判が聞こえてくる。
スポーツカーらしい外観や50:50という素性の良い前後重量バランス、こだわりの詰まったサスペンション設計などから、ハンドリングマシンの製作に長けていると評判のマツダの次世代スポーツに走りの良さを期待する人も少なくないだろう。
しかし実際に乗ってみると、長いホイールベース、車格からするとやや重い車重、そしてコンフォート方向にセットアップされた柔らかいサスペンションなど、期待した軽快なハンドリングとは到底言えない乗り味にガッカリしたという声もある。
項目は3つ挙げられるが、評判の悪さに繋がるのはロータリーエンジンへの不安が大部分を占めているように感じられる。
ロータリーエンジンの特徴とそのメンテナンス方法
前述のようにロータリーエンジンは一部で壊れやすいと言われているが、実際はどうなのだろうか。ロータリーエンジンは、繭形のハウジングの中をおにぎり状のローターが偏芯回転運動をして駆動力を得る方式のエンジンだ。
レシプロエンジンのように、ピストンの上下運動を回転運動に変換するのではなく、爆発の力を連続して回転の力として取り出せるため、出力に対しての効率に優れ、回転のスムーズさが特徴だ。
その一方で、ロータリーエンジンには複数の「シール」を備えないとならないという特徴もある。燃焼を効率良く行うためには、爆発の圧力を逃さず封じつつ、オイルの潤滑機能も備える、レシプロエンジンでの「ピストンリング」の働きをする「シール」が必要不可欠。
この「シール」がクセ者で、ピストンのような円筒形に比べて不均一な形状をしているローターで密封性を発揮するには、複雑な構造の「シール」が複数必要となっている。この「シール」の扱いにデリケートさが求められるのは事実だが、しっかりマニュアル通りに組まれていれば、巷で言われるほど扱いがシビアというわけではない。
少なくともユーザーが普通に運用する上で過剰に気にする必要はないだろう。強いて注意点を挙げるとしたら以下の2点。
オイルは指定のグレードのものを指定のタイミングで交換すること
エンジンがノーマルなら、マツダ純正のロータリーエンジン用オイルを入れるのが間違いない選択だ。単価は、他のスポーツカーの指定オイルより高いのでランニングコストが嵩むのが難点だが、オイルはケチるとあとで大きな出費になる可能性もあるので、必要な出費と割り切るしかない。
一部では、鉱物油が向いているとの記事も見掛けるが、その理由は添加剤が少ないため、カーボンの発生を少なくできるというもの。
オイルの選び方は人それぞれで一概に言えないが、多くの市販オイルはレシプロエンジン向けにブレンドされて作られているため、熱の分布やフリクション、部品に掛かる圧力などがレシプロエンジンと異なるロータリーエンジンに適したオイルは限られていると考えたほうが良い。
そういう意味で純正を勧めたい。
プラグも定期的な交換を習慣付ける
オイルと並んで重要なのがスパークプラグの管理だ。これはロータリーエンジンに限った話ではないが、ロータリーエンジンはプラグの不調がエンジンの不調として現れやすい傾向がある。
プラグを交換したらレスポンスやふけ上がりが蘇ったという声はロータリー界隈ではよく聞かれる話だ。プラグが劣化するとフィーリングへの影響も大きいが、不完全燃焼によりカーボンの発生が増えることに留意したほうがいい。
無精して放置していると、プラグに付着したカーボンから自然着火が起こり、異常燃焼で可動部分にダメージが入ることも考えられる。13Bエンジンは1ローターあたり2本のプラグが装着されているので、合計で4本必要になる。
このプラグもレシプロエンジンとは異なり、先端に電極が飛び出していない特殊なものが使われている。そのため標準プラグよりだいぶ高価だが、今ときの高性能エンジンにはプラチナやイリジウムなどの高価なプラグが指定されているので、同じ高性能なエンジンだと思えば心理的な負担も軽減するだろう。
ただし、交換のサイクルはレシプロエンジンより早い。専門ショップのガイドラインでは、最低で1万キロ毎、できればオイル交換2回で1回の交換が望ましいとしている。
RX-8がオススメの人、オススメでない人
このように、モノの見方は人それぞれ趣味があるので、巷の「RX-8」に対する悪い評判のすべてを真に受ける必要はないと思われる。とは言え、もし所有を検討しているなら、今振り返っても他に類を見ないほど個性を放つパッケージの車種なので、その個性を生む特殊な部分とそれに伴うデメリットも受け入れる必要がある。
それを踏まえて「RX-8」をオススメできる人は、走りも日常使いもある程度の高いバランスでこなしたいと思っているタイプ。特にスポーツ走行は気持ちよく堪能したいという人に向いているだろう。
また4人がしっかり乗れるとは言え、セダンやミニバンに比べたら居住性や使い勝手は劣るので、独身や子供がいない、あるいはまだ小さいという夫婦くらいの人数がベストだろう。
ツルシのまま楽しむのはもちろん、自分好みに足まわりを固めてしっかりしたハンドリングに仕立てるも良し、たまに走り仲間と一緒にサーキットの走行会などに行くのも楽しめるだろう。
逆に「RX-8」を勧められないという人は、まず経済観念が厳しめな人だ。前述のように「RX-8」は燃費が良くなく、オイルやプラグなども含めたランニングコストが一般の乗用車として見た場合、かなり割高になる。
特に、長距離の移動をよく行う場合はその差が顕著になるだろう。また、日常使いのウエイトが高めな人にもあまりオススメできない。
室内空間は、大人4人が不満なく過ごせる空間があるとは言え、そちらに重きを置く場合は判断基準が違ってくるため、充分基準を満たせるかどうかは怪しい。その場合は前のドアを先に開けないと後ろのドアが開けられないという点も不便なポイントになる。
あるいは、本格的なスポーツカーを求める人にも向かないだろう。スポーツ性能は、ファミリーカーより格段に高いレベルを備えているが、基本の設計が4人乗車を前提としているので、軽快な走りをするには不向きな構成になっている。タイトコーナーの多い山道や、ミニサーキットで何本もアタックする場合は不満が出てしまうだろう。
これは骨格に関わることなので、改善はできても根本的な解決は望めない。