マツダ・RX-8は、2003年に登場した、国産車では唯一無二のスポーツカーの外観を持つ4ドアのクーペだ。市販車では、RX-2こと初代カペラに始まり、RX-3(サバンナ)、RX-4(ルーチェ)と続き、マツダのロータリー・スポーツの代名詞となっているRX-7で栄華を極めた後、マツダの意気込みとこだわりをふんだんに込めて作られたのがこのRX-8だ。
RXというのは元々ロータリーエンジン搭載の輸出仕様車に与えられた名称だが、RX-7の世代から国内でも名称として使われるようになった。現在では、マツダの技術力の結晶であり、象徴ともなっているロータリーエンジン搭載の最後のフラッグシップラインとなっている(2024年現在)。
北米市場で確実な販売成績を残すために4ドアでなければならないという条件を実現するための方策として、特徴的な観音開き方式を採用。大人4人が乗って長距離を走れる居住スペースを確保しながら、誰が見てもスポーツカーというバランスとスタイリングに仕立てたことに、マツダの意地と矜持を感じる意欲的なモデルだ。
現在改めて人気が再燃している気配のある、このRX-8を少し掘り下げてみよう。
RX-8の最大の特徴「ロータリーエンジン」の魅力とは
上記のようにRX-8は4人がしっかり乗れる4ドアクーペというタイプの乗用車だが、その走りは紛れもなく本格スポーツカーのレベルだと言って良いだろう。その走りを生み出す中核となっているのは、やはり心臓部のロータリーエンジンだ。
ロータリーエンジンの魅力は、なんと言ってもその回転特性だろう。「まるでモーターのようだ」という感想が有名だが、軽やかなフィーリングで二次曲線的に回転が上昇していく回転特性がもたらす加速の快感に魅せられた人は多い。
たった1.3リッターという排気量で2リッターを大きく超える排気量のマシンたちと真っ向勝負を展開していたことからも、その出力効率の良さは明らかだが、
根本の回転フィーリングの良さから、速度域が低くても充分楽しめるという点も魅力の一つだろう。
RX-8のエンジンは250psを8,500rpmで発生させる、市販車としては超高回転型のエンジンであり、そのスペックだけでも十分にワクワクさせる。
RX-8に搭載されているのは、RX-7から遺伝子を受け継いだ2ローターの「13B-MSP」。ロータリーエンジンを表す「RE」と新たな世界を意味する「GENESIS」とを組み合わせ、「RENESIS」というサブネームが与えられていて、クルマ好きの間では型式名よりこちらの方が通りが良いこともある。
652cc×2ローターで、13Bという形式の継続を見ると、RX-7に搭載された13BをNA化したブラッシュアップ版ではないかと思うかもしれないが、実際は完全新設計の新世代2ローターである。その特徴は、高出力と燃費を両立した点だ。
これまで、吸気はサイドハウジングに空けられたポートからおこない、排気はローターハウジングに空けられたポートからおこなっていた。この13B-MSPは次世代のニーズにも合致させるという意義を込めて、改めてNAに最適化させる設計で各部を見直し、吸排気ポートもサイドハウジングに移設することでポートタイミングの自由度を高めている。
それにより、ロータリーエンジンの課題であった未燃焼ガスの排出と吸気側への混入を大幅に減少させ、吸気ポートの形状見直しが可能となり、新気導入効率が向上し、パワーアップにも繋がった。
これまでのロータリーエンジンでは解決できなかった課題を解消しつつパワーアップも果たしたという点で、まさにGENESISな存在だと言って良いだろう。
RX-8の走行性能について
RX-8の乗り味は、そのスポーツカー然としたスタイリングから想像するものよりだいぶジェントルな印象だ。スポーツカーに対して並々ならない情熱を込めるマツダの気質を期待すると肩すかしを食らうかもしれない。
しかし、このクルマの開発主旨は「大人4人が……」という部分であるので、むしろ「よく抑えた」と賞賛したい気持ちが湧き上がる。そのため街乗りは至って快適に移動できるだろう。
最初の頃は、同クラスの排気量のクルマに比べて低速トルクが薄く、慣れが必要かもしれないが、同乗者から不満が出ることは無いだろう。しかし、足回りが軟弱かというとそうではない。ワインディングや荒れた路面での大きな入力にはしっかりダンパーが仕事をして踏ん張ってくれるので安心感は強い。
これにはピュアスポーツのRX-7よりも向上したボディ剛性やサスペンションの見直し、そしてRX-7から受け継ぐ「PPF(パワープラントフレーム)」などの効能も寄与しているだろう。ただし、冒頭で本格スポーツと書いたが、実際のところサーキットでタイムを競うような用途には向かないだろう。
スペック上はスポーツカーの必須条件とされる前後重量配分50:50を実現。しかし、4ドアセダン並みの2,700mmという長いホイールベースと、サッシュレスの4ドア構造による大きな開口部を持ちながらスポーツカー並みの高剛性を実現した反作用で、1340kg〜という車重がネックになってしまうからだ。
車重に関しては、コストをかければ1トン近くまで軽量化できる可能性はあるが、コーナーリング性能を追求するにはロングホイールベースは足枷になる。
つまり、本格的なサーキット使いは向かないが、山道でホットな走りを楽しんだり、サーキットの走行会で短時間のレーシング体験を堪能するには充分なポテンシャルを持っている。さらに、街乗りや家族、友人など4人での移動にも問題無く使えるというオールマイティさがこの車の魅力ではないだろうか。
RX-8は日常でも使える?
上記のように、RX-8は外観の印象から想像しにくいほどのソフトな乗り心地の足を持っており、4人乗車でも長距離移動も問題無く行うことができるので、日常使いでの問題は無いだろう。
さらに、トランクはゴルフバッグ二つが入る容量があり、4人フル乗車での泊まり旅行は厳しいが、1〜2人での移動なら充分な積載量を確保している。
強いて使い勝手の問題を挙げれば、例の観音開きのドアが、先に前のドアを開けないと後ろのドアが開けられないという点だろうか。頻繁に後ろの乗員が出入りする場合は、助手席の人が忙しくなる。
それでも、2ドアクーペに比べれば乗降性も後席の広さも段違いに快適だということは言っておきたい。
RX-8を購入する前に気をつけたい注意点
そのように、スタイリングの良さと優れた動力性能、そして4人がしっかり乗れる日常使いの良さを高次元で両立させたオールマイティさが魅力のRX-8だが、発売から約20年が経過した今、改めて購入する時に気を付けておきたい点を紹介しよう。
燃費が比較的悪い
RX-7と比べてかなり燃費が向上したとは言え、今の高燃費エンジン搭載車と比べると、少し驚く数値であり、燃費を気にする人には厳しいかもしれない。
実際の数値(前期)は、低出力版210psのA/T仕様で9.0㎞/L、低出力版のM/Tが最も良くて10.0㎞/L、高出力版250psのM/Tが9.4㎞/Lとなっている。これはカタログ値なので、実際の走行シーン、特にストップ&ゴーが多い街乗りではそこから1㎞/Lくらい差し引いた数値になるだろう。
ガソリン価格が上昇している今では、ハイオクを入れてこの数値で300㎞走行すると、最悪7000円くらい掛かってしまうことになる。この数字に不満を感じるなら、購入を再検討した方が良いだろう。
日本の誇るロータリーエンジン搭載のピュアスポーツ車種「マツダ・RX-7」。1978年に登場した初代のSA22C型に始まり、2代目のFC3S型を経て、RX-7シリーズとしては最後のモデルとなった3代目のFD3S型へと代を重ね、国産唯一のロー[…]
メンテナンスコストが高くなる場合がある
RX-8は初期型で発売から20年以上、最終モデルでも10年以上が経過しているため、メンテナンスのコストを考慮に入れないと、購入したあとで大きな出費が舞い込んで慌ててしまう可能性がある。
エンジンに関しては、いまだに「壊れやすい」という誤解を持つ人がいるが、実際は補修やメンテは「なんとかなる」と言って良いだろう。確かに新品の純正部品は入手困難なものが多くなってきているが、主な補修パーツはチューニングパーツメーカーやRE専門店から入手できるので維持は可能だ。
全体的に見ると、年数が経過したことで新品が入手できなくなっている補修部品が増えつつあるため、摩耗や劣化、故障が予想される場合は事前に調査をしておく方が良いだろう。新品は諦めて中古の部品で補修を行おうと考えた場合、構造的に見ても個性の塊のようなクルマなので、他の車種や他メーカーの車種からの流用も難しい。
本体の価格が上がっている今、中古部品の価格も釣られて上昇傾向にあるので頭に入れておいた方が良い。
中古車価格が高騰している?
購入にあたっての最大のハードルが本体価格の上昇だろう。2013年に最終モデルの製造が終了して生産終了モデルとなったRX-8。スポーツモデルでありながら実用性を兼ね備えるという希有な存在と、マツダのスポーツライン最終形態というマニアに訴求する要素を複数持っていることから、一部のグレードが高騰しているようだ。
そのグレードというのは、最終モデルの特別仕様車「スピリットR」だ。このモデルは専用のパーツを内外装に装着して2000台限定で販売されたもので、その特別性にプレミアが付いているようだ。
一方、それ以外の年式やグレードに関しては、かなりお買い得な価格で取引されている。場合によっては100万円以下のプライスが付く物もあるので、整備に自信があるなら、プチレストアを楽しむスタンスで購入するのもアリかもしれない。