インタークーラーというアイテムが注目され出したのは1980年代初頭。排ガス規制で牙を抜かれたと言われるハイパフォーマンスカーに、再び力強さを取り戻させたのがターボチャージャーの存在である。
ターボ装着によって再びハイパワー競争が盛り上がる中で、その高出力を象徴するアイテムとして注目されたのが“インタークーラー”である。ここではそのインタークーラーに注目して解説していこう。
インタークーラーとは何か?
インタークーラーというアイテムを簡単に説明すると、ターボチャージャーから送られてくる過給された空気を冷やす装置だ。冷却水を冷やすラジエターに対して、空気を冷やすのがインタークーラーと言ってもいいだろう。
インタークーラーの役割
なぜ吸入空気を冷やす必要があるかというと、ターボチャージャーによる過給の段階で温度が上がってしまうから。空気などの気体は圧縮されて圧力が高められると温度が上がる性質がある。逆に圧力を下げると温度が下がるので、この特性を利用して冷やすのがクーラーの仕組みだが、それは置いておこう。
ターボエンジンは過給圧が高いほど高いパワーを発揮できるが、エンジンの出力効率の点では、燃焼の前後の温度差が大きいほど効率的に出力を生み出せるため、吸気温度はできるだけ下げる必要がある。
インタークーラーの仕組み
インタークーラーは先述のようにラジエターの空気版とも言える構造をしている。入り口と出口の間を複数の細いパイプで繋ぎ、その細いパイプに冷却効率を高めるための細かいフィンを装着し、中を通る空気の熱を放散させる仕組みである。
ラジエターと異なるのは、中を通す空気の圧力が高い点であり、それによりラジエターよりもパイプの肉厚が厚く作られている。そして容量を稼ぐために奥行きの厚みを多く取っているのも特徴のひとつ。要するに、空気を冷やすための頑丈なラジエターと言って差し支えないであろう。
インタークーラーの効果とデメリット
インタークーラーはターボエンジンの性能を最大限引き出すために欠かせない装置である。吸気温度を下げることで効率的な燃焼を可能にし、高出力化に寄与する。
しかし、その一方でコストやスペースの問題、応答性の低下といったデメリットも存在する。本節では、インタークーラーの効果と潜在的な課題について詳しく掘り下げていく。
インタークーラーの効果
インタークーラーの役割は過給された空気の温度を下げることだと述べたが、その効果はより多くのパワーを発生させることにある。過給圧を高めればそれだけ多くの空気を取り込むためパワーを稼げるが、その一方で、温度が下がることで圧力が低下するという気体の基本特性から、吸気圧を下げられるという点も重要である。
レシプロエンジンでは圧縮が高まると、一部の熱が臨界点を越えて自然着火するノッキングが発生するため、点火時期を遅らせざるを得なくなる。これはパワーの追求にはマイナス要素であるため、吸気圧力はできるだけ低い方が有利である。
インタークーラーは、吸気の温度を下げることで吸気圧力を下げるという重要な役割を果たす。
デメリット
このようにインタークーラーはターボエンジンのパワー追求には必須のアイテムだが、ケースによってはデメリットのウエイトが大きくなることもある。まずはコスト面。単純にパーツが増えることによるコスト増が挙げられる。
インタークーラーの装着には、それを繋ぐサクションパイプやステー類、ダクトなどの専用パーツが必要になるため、それなりのコストが増える。そしてスペース面でも問題が出ることも多い。インタークーラーには過給能力に応じた容積が必要なので、エンジンルーム内にそれを納めるスペースが必須となる。
特にV型や水平対向エンジンは体積が大きいので、インタークーラー装着のためのスペースを確保するのが難しく、冷却経路の確保も課題となっている。そしてパワーとアクセルの応答性の低下も問題だ。
インタークーラー内は冷却効率を高めるためにフィンなどの抵抗が多く備わっているので、その抵抗による圧力の低下が起こる。ターボエンジンではターボラグという応答性の低下が知られているが、インタークーラーの装着でそのラグがさらに大きくなる可能性がある。
そのため、メーカーではレスポンスを向上させるために、インタークーラーの構造や容量の最適化や配管の短縮などの工夫をおこなっている。
チューニングパーツとしてのインタークーラー
市販車の場合はターボエンジンでもインタークーラーを装着していない車種もある。しかしパワーを追求するチューニングの世界では、インタークーラーの装着が必須となっている。
大容量インタークーラーとは
ターボチャージャーは排気の圧力を活用して吸気の圧力を高めるための装置なので、発生させたいパワーに応じてその仕事率が高い仕様のものが選ばれる。
ハイパワーなエンジンほど過給の風量が多く圧力が高くなるが、その風量と圧力に対してインタークーラーの容量が不足している場合、放熱が追い付かないだけでなく、吸気の抵抗が大きくなり、不具合が発生する。
逆に、ターボチャージャーの性能や仕様よりも大きすぎる容量のものでは、吸気圧の低下による流速の低下が起こり、レスポンスが悪化する。
大容量インタークーラーが必要なケース
純正の状態からチューニングをおこなう場合に、大容量インタークーラーの装着が必要となるケースはどのような場合だろうか。まず、耐久性のマージンを残した範囲でのブーストアップでは必要ないだろう。
そこからパワーを求めて過給圧を上げていけば吸気温度も上昇するため、インタークーラーの容量を増やす必要が出てくるが、純正のターボチャージャーでは限界が低いので、交換が必須というところまで行かない場合が多い。
ボルトオンターボと呼ばれている、大がかりな改修無しに装着できる製品も同様だろう。確実に大容量インタークーラーが必要となるのは、ターボチャージャーを大型化した場合である。
ベースエンジンの排気量にもよるが、おおまかに出力で1.5倍以上を狙うなら、大容量インタークーラーを前提とするべきである。
インタークーラーを交換する場合の注意点
インタークーラーの交換は、ターボエンジンの性能向上を目的としたチューニングにおいて重要なステップである。
ただし、エンジン仕様に見合った容量の選定や装着スペースの確保など、いくつかの注意点がある。本節では、インタークーラーを交換する際に押さえておくべきポイントについて解説する。
エンジンの仕様に見合っているか
先述のように、インタークーラーは大は小を兼ねない。パワー向上とともに扱いやすさを確保するためには適切なサイズのものを選ぶ必要がある。
ターボチューンの最盛期には、見栄を張って過剰な容量のインタークーラーを装着するケースも見られたが、アクセルレスポンスが悪く、実際の競技では使い物にならないことも多かった。
逆に容量が足りなすぎる場合はECUのセッティングによってはノッキングを発生させる場合もあるので注意したい。
装着スペースの問題
大容量インタークーラーは容積がかなりあるため、装着スペースを考慮しないと、想定外のフレームなどの部分までカットしなければならなくなる場合もある。
一般的なラジエターの前に装着するケースでは、バンパーのカットは必須だ。そして配管を通すためにラジエター脇のコアサポートやフェンダーをカットすることも少なくない。
また、安易に位置決めするとラジエターの冷却能力の低下が起こるケースもあるので、それも踏まえて位置決めをおこないたい。
メンテナンスについて
インタークーラーの管理については、他のチューニングパーツのようにデリケートな配慮は必要ないだろう。ただし、圧力の損失はパワー低下に直結するため、インタークーラーのコア部の穴あきや、配管の劣化による破れには気を配っておきたい。
一般的な大容量インタークーラーのコアは、ラジエターとは異なり、薄いフィンがパイプの内側にあるため、飛び石などで潰れる可能性は低いが、サビによって微細な穴が空いたり、溶接部にクラックが入るケースはそれなりにある。
インタークーラーの効果を最大限に体感するには、実際にターボ車を走らせてみることが最善である。しかし、試乗できる機会は限られている。そんなときにおすすめなのが「おもしろレンタカー」である。
多彩なターボ車をレンタルすることで、インタークーラーの性能がもたらす走行フィーリングを直に感じることが可能だ。パワーアップした車両の真価を知りたい方は、ぜひ利用してその違いを実感してほしい。