タービン交換は本当に必要?ブーストアップとの違いを比較検証

昨今は純正の状態で十分以上のパワーを備えた市販車が多くリリースされていることや、原状復帰を諦めて行うような大がかりなチューニングが求められなくなっていることなどから、チューニングの主流がライトなものへとシフトしている傾向にある。

しかし、それでも大パワーを獲得するというロマンを求めて大がかりなチューニングを行うケースもまだ残っている。ここでは、「大パワーの獲得と言えばこれ」という“タービン交換”にスポットを当てて、少し掘り下げてみよう。

ターボの仕組みと効果

タービン交換の話に行く前に、まずはターボチャージャーについておさらいしておこう。

ターボチャージャーとは?

ターボチャージャーとは、排気の残留エネルギーを利用して吸気の量を増加させる装置のことである。レシプロエンジンのエネルギー効率は、最高レベルでも40%以下と言われており、燃焼エネルギーの60%が排気と冷却で逃してしまっている。

その排気で逃げるエネルギーを活用するために開発されたのがターボチャージャーである。市販車レベルでも自然吸気エンジンの1.5倍以上のパワーが得られるので、ハイパフォーマンスカーの主力エンジンとして最も活用される方式となっている。

ターボの仕組み

その仕組みは、排気の勢い(=エネルギー)を特殊なホイール(風車)で受け、その回転力で同じ軸の反対側に設置されたホイールで吸気を多く取り込むというものである。排気が通る経路が“タービン”、吸気を過給する経路は“コンプレッサー”と呼ばれる。

エンジンの回転が上がればそれに比例して取り込む空気が増加するため、二次曲線的にパワーの上昇が見込めるシステムである。ただし、各部の強度や吸気効率上昇の限界値があるため、実際は一定の圧力で過給を制限して運用している。

燃焼室で燃焼された後の排気は排気ポートからタービンへと集合させるエキゾーストマニフォールドで送られ、残留エネルギーを取り込まれた後で排気はマフラーへと送られる。コンプレッサー側では排気エネルギーで回されるホイールで過給がおこなわれ、量と圧力を増した空気が燃料と混合されて燃焼室に送られ、高出力を発生させるという流れ。

過給された直後は圧力の上昇に伴って温度も上がるため、高出力を狙うタイプのエンジンでは、燃焼効率の向上を目的に“インタークーラー”で熱をある程度奪ってから燃焼室へ送られる。

エンジンの仕様とターボの関係

タービンだけで見ると排気の抵抗となる存在であるため、エンジンの仕様とターボチャージャーの仕様にはバランスが求められる。

狙う出力とタービンの関係

熱効率の面で見ると、排気には無駄に捨てられるエネルギーが大量に残っている。一方、排気効率の観点では、タービンが排気経路内の抵抗となり、排気効率を阻害している。

ターボチャージャーはそれを上回る出力向上が見込めるため、トータルで見て出力向上には効果の大きい装置となるが、エンジンの能力に比べて過剰なサイズのターボチャージャーを装着すると、そのネガティブな面が表に出てきてしまう。

その代表的な例として、ホイールを回すのに十分な回転に達するまで過給が行われない現象が挙げられる。例えば6千回転以下ではアクセル操作に回転上昇が追随しない状態である。逆に、小さすぎると低回転ではレスポンス良く過給が反応するが、エンジンの潜在能力より低い最大出力しか得られない。

出力特性とタービンのタイプ

上記のように、エンジンの能力に応じたターボチャージャーを選ばないと、どこかの性能をスポイルしてしまう結果になるが、実用を考えると、さらに綿密な組み合わせが求められる。

例えばレース車輌の場合で考えると、低速コーナーが多いコースでは、低中速からの加速トルクが重要なので風量が少なめのターボチャージャーが適している。一方、高速コーナーが多いコースや直線でのパワー勝負が重要なコースでは、最大出力が決め手となるため風量が多めのターボチャージャーが適している。

チューニング車両でもその方程式は同じで、エンジンのポテンシャルに対する標準的なターボチャージャーのサイズを基本にして、求める出力特性に応じた風量(サイズ)のターボチャージャーを選ぶことがポイントになってくる。

ブーストアップとの違い

ターボエンジンのカスタムでは、“ブーストアップ”という手法も選択肢の一つである。

タービン交換とは何が違うのか、その点を解説する。

ブーストアップとは?

“ブーストアップ”というのは、過給の圧力(ブースト圧)を上げるパワーアップの手法のことだ。純正タービンのままでECUの設定を変更し、加給圧を高める手法を指すことがほとんどであり、少ない費用で耐久性をあまり落とさずに行えるため、人気のメニューである。

あくまでエンジンもターボチャージャーも純正の構成のままで行うため、出力の向上率はあまり高くないが、それでも加速の力強さが増したことを十分体感できる効果が見込める。出力をどれほど向上させられるかは、純正エンジンの設計によって異なる。

タービン交換との違い

タービン交換はその名の通り、ターボチャージャー、配管、制御システムを交換する手法であり、狙えるパワーの上限が大きく異なる。言い方を変えると、ブーストアップでは満足できないという場合に選択する手法ということになる。

内容によっては純正の3倍以上のパワーが得られるが、出力向上の度合いが高くなるほど専用のパーツや機械加工が必要となり、その度合いに応じてコストが跳ね上がる。出力の向上率に応じて耐久性も犠牲になる点も忘れてはならない。

主なスポーツ車でのタービン交換の例

具体的に、主な車両をサンプルにしてその実例を見てみよう。

日産・GT-R

国産のハイパフォーマンスカーの代表格である「日産・GT-R」は、そのエンジン出力においても国産随一の性能を誇る。搭載される「VR38DETT」ユニットは、V6の3799ccツインターボで、最大600psを発生する。

純正で1リッターあたり157psという高い性能を発揮する。このユニットは、ブーストアップで1割増しの660psが狙える。おそらくサーキットのスポーツ走行程度なら自走で行き来できるだろう。

タービン交換を視野に入れればエンジン本体に手を加えなくても800psは狙える。フルチューンで耐久性を犠牲にする覚悟なら1000psオーバーも視野に入るだろう。

日産・スカイラインGT-R(BNR34)

第二世代GT-Rの最終形である「BNR34型 スカイラインGT-R」は、殿堂入りの呼び声もある名機「RB26DETT」ユニットを搭載する最後のモデルでもある。

このユニットは直列6気筒2568ccのツインターボで280psを発生する。ただしこの数値は当時のメーカー自主規制によるもので、ウワサでは純正状態でも290psを越える個体もあったということからも、かなり抑えた数値と言っていいだろう。

仮に300psであれば、リッターあたり116psとなる。チューニングブーム当時、その時は、ブーストアップ仕様で軽く300psオーバーを達成していた。ボルトオンタービン、吸排気改、書き換えECUで400psは狙えたが、現在このレベルを目指すのであればオーバーホールを前提にするべきである。

フルチューンの場合は、耐久性を残した仕様で700ps。最高速アタックやドラッグレース仕様では1000psオーバーという例も複数存在した。ブースト圧は市販の倍近い2キロに設定されるケースも少なくなかった。

トヨタ・スープラ(JZA80)

ターボ車によるハイパワー競争真っ只中の時代において、「スカイラインGT-R」のライバル的存在だった「JZA80型・トヨタ・スープラ」である。搭載するエンジンは、スカイラインGT-Rと同じく直列6気筒ツインターボの「2JZ-GTE型」ユニット。ただしこちらは排気量が2997ccと大きい分、同じ280ps表記ながら、GT-Rより余裕を持って発生させていた。

そのため、自主規制を無視したチューニングの世界では、ブーストアップ仕様で340ps以上を実現し、スカイラインGT-Rに明確なアドバンテージを保っていた。

タービン交換仕様ではチューナーのやり方によって差があり、RB26DETTと互角の印象であったが、最大出力を追求するドラッグレース仕様ではボアアップの余地の優位も加わって、2JZ-GTEの圧勝だった。数字では実戦レベルの最大で1500ps以上という例も散見された。

三菱・ランサーEVO(型式未定)

2リッタークラスのモンスターマシンの一角である「三菱・ランサー・エヴォリューション9(CT9A型)」は、WRCを主戦場とするラリーマシンだが、国内のチューニングシーンでも多くのモンスターが生み出された車種だ。

搭載するエンジンは「4G63(ターボ)型」で、1997ccの直列4気筒DOHCターボユニット。頑丈な鋳鉄製のシリンダーブロックを採用していることが特徴のひとつで、これにより競技での耐久性や、チューニングにおける懐の深さが優位な点とされている。

純正で2リットルながら280psを発揮して、リッターあたり141psと優秀な数値だ。純正のターボチャージャーは、ロングストロークタイプのエンジンとレスポンス優先の設定によって、やや小さめのサイズを高めのブースト圧で運用しているとされる。

チューニングの世界では、まずブーストアップ仕様で300psオーバーは射程内。これにインタークーラーなど吸排気のモディファイや点火などを加え、ブースト圧を1.4キロ程度まで上げれば、350psを容易に超える。

タービン交換でサーキットを攻められるレスポンスを重視した仕様では2.0リットルのままで400psオーバーが狙える。究極の例で、国内で最もホットな筑波アタックの車両では、2.2リットルにスープアップしたフルチューンで950psという驚異のパワーを発揮。

このユニットはアルミビレット製ブロックやアルコール燃料という“飛び道具”を採用しているが、コントロール性を重視したサーキットアタック仕様でリッターあたり431psという数値を記録しており、驚異的である。

スズキ・スイフトスポーツ

コンパクトカーの代表として選んだのは「スズキ・スイフトスポーツ(ZC33S型)」である。搭載するエンジンは「K14C型」で、1371ccの直列4気筒DOHCターボユニットだ。出力は140psで、リッターあたり100ps強と、ターボエンジンとしては控えめな数値である。

特徴はターボエンジンにしては圧縮比が9.9と高い点と、エキマニを廃してターボチャージャーをシリンダーヘッドに直付けしている点。高い圧縮比は直噴仕様によるもので、燃焼室に限界までターボチャージャーを近づけたこと、そして排気のクローズ制御と併せてこれまでに無いハイレスポンスなエンジンに仕上がっている。

その高い圧縮比をベースにしていることから、ブーストアップにも高い対応性を保っているが、実際のアップ量は20〜30ps程度の上乗せである。特殊な排気系の構成のため、タービン交換には少し特殊な方法が必要だが、実際におこなったショップの例では、ブースト圧1.4キロ設定で225psまで向上させた。

ちなみにスズキのチューニングでお馴染みの「モンスタースポーツ」からターボキットが発売されており、公式なデータでは200psを記録している。

タービン交換時の注意点

上で例に挙げた車種のように年式が古いタイプの車両の場合は、エンジンの健康状態が衰えているケースが少なくないため、タービン選びの前にオーバーホールの検討をオススメする。

エンジン仕様に見合ったサイズとタイプの選択

タービン交換の際に「こんなハズじゃなかった」とならないために、まず気をつけたいのは、エンジンの出力性能とターボチャージャーのバランスを確かめること。

先述のようにターボチャージャーのサイズが大きすぎるとレスポンス低下を招き、小さすぎると狙った最高出力に届かないという恐れがある。排気量、カムの特性、シリンダーヘッドの加工やバルブサイズ、吸排気の構成などから狙う出力特性を見極めて、適正なターボチャージャーを選ぶことが重要だ。

インタークーラーやインジェクターとの関係性

概算で純正の1.5倍以上の出力向上を狙うなら、大容量インタークーラーの導入もメニューに組み入れるべきである。

経験豊富なショップに任せるなら確実にセットメニューとして提案されるはずだが、もし個人でおこなう場合はこのことを踏まえてメニューを組み立てて欲しい。

配管の取り回しなど

タービン交換をするにあたり、大容量インタークーラーへの交換も含まれるような出力を求める場合は、吸排気の配管も適切なレイアウトでおこなうようにしたい。

特に経路の圧損がパワーに影響する吸気側のレイアウトは、適切なものと不適切なものとで出力に大きな差が生じるほか、レスポンスが損なわれる可能性がある。せっかく安くないコストを掛けるのだから、細部にまで気を使って仕上げたい。

タービン交換で得られるパワーアップは、車好きにとって大きな魅力である。しかし、実際にタービン交換後の走りを体感する機会は限られている。

そこでおすすめしたいのが「おもしろレンタカー」である。タービン交換済みの車両をレンタルすることで、大パワーを手にした車の加速感やハンドリングを実際に体験することが可能だ。タービン交換を検討している方はもちろん、チューニングカーの魅力を味わいたい方にもぜひ試してほしい。