生産が終了したクルマの中には、今なお多くの人を魅了するエンジンが数多くある。その中でも、水平対向4気筒エンジンは、独自のサウンドを奏でるエンジンとして多くの人を虜にしている。
この記事では、水平対向エンジンの概要やV型180°エンジンとの違い、水平対向4気筒エンジンの特徴や魅力などを解説する。
水平対向エンジンとは?

水平対向エンジンとは、文字通りエンジンのピストンおよびシリンダーが水平方向に配置され、対向方向に動く構造をもつエンジンのことである。左右に配置されたシリンダー内のピストンは、鏡に映したかのように左右のピストンが同時に内側または外側に動くのが特徴である。実は、この点が水平対向エンジンとV型180°エンジンとの違いでもある。
V型180°エンジンは、V型エンジンの派生エンジンであり、左右それぞれのシリンダーおよびピストンの角度が180°水平になっているエンジンだ。ただし、V型180°エンジンは、左右のシリンダー内のピストンが同一方向に動く。言い換えると、片方のピストンが内側に向かうとき、もう片方のピストンも同じ方向に向かって動く構造である。
ピストンの動き方に違いがあるため、水平対向エンジンの場合は振動を打ち消し合い、V型180°エンジンの場合は、水平対向エンジンほど効果的に振動を打ち消すことができない。
SUBARUに代表される水平対向4気筒エンジンの特徴

水平対向エンジンを搭載するクルマと聞くと、どのメーカーのどのモデルを思い浮かべるだろうか。多くの人がスバルまたはポルシェと答えるだろう。現在(2025年時点)水平対向エンジンを製造し、クルマに搭載して販売している自動車メーカーは、スバルとポルシェのみとなっている。
トヨタの86やGR86を思い浮かべる方もいるかもしれないが、トヨタ86/GR86とスバルBRZは共同開発された兄弟車で、製造はスバルが行っている。また、重心を低くするために水平対向エンジンを搭載したと言われていることからも、トヨタがスバルの水平対向エンジンの技術を採用したといえるだろう。
スバルBRZとトヨタ86/GR86の話題でも触れたとおり、水平対向エンジンは、左右対称にシリンダーが配置され、左右のピストンが同時に内側または外側に動くため、振動を打ち消し合うという特性がある。また、水平対向エンジンの場合、シリンダーが水平方向に配置されるため、エンジン本体の高さを抑えられるため、車両全体の重心を下げることが可能となる。
このような特徴があることから、スバルは長年にわたり水平対向エンジンを採用し続けているのである。スバルの代表的な水平対向エンジンとしては、水平対向4気筒ターボエンジンのEJ20が挙げられる。このEJ20エンジンは、今なお多くのファンから名エンジンと称される傑作である。
スバルでは水平対向4気筒エンジンを多くのモデルに搭載しているが、ポルシェでは水平対向4気筒エンジンの他に水平対向6気筒エンジンもラインナップしている。水平対向6気筒エンジンが搭載されるのは、ポルシェを代表するモデルであり長い歴史がある「911」だ。911には現在も水平対向6気筒エンジンが搭載されている。
魅力があるものの厳しい面もある

水平対向エンジンは、振動を打ち消し合い、重心を下げるなど、さまざまなメリットがあるエンジンだが、燃費性能が直列エンジンやV型エンジンよりも良くない傾向にある。また、クルマの整備をするときの整備性が悪く、整備士からは扱いづらいという声もある。
その他にも、水平対向エンジンは、縦方向への高さを抑えることができるため低重心化できるものの、横幅は直列エンジンやV型エンジンよりも広く必要となる。そのため、クルマの全幅を抑えると、前輪の切れ角が制限され、最小回転半径が大きくなるというデメリットがある。このような点も水平対向エンジンならではの悩みといえるだろう。
水平対向4気筒に乗れる今のうちに感じておきたい魅力

水平対向エンジンには、一般的に広く普及している直列エンジンやV型エンジンにはない独特な魅力がある。それが、「ボクサーサウンド」とも言われる「ドコドコ」や「ドドドド」という音だ。
特に、スバル車の水平対向4気筒エンジンでは、このボクサーサウンドを聞きたいために、心地よいサウンドを得るために、マフラーを交換するオーナーも多い。
しかし、このボクサーサウンドは、一時的にスバルから消えたことがある。それは、ボクサーサウンドよりもエンジン性能、特にレスポンスを重視したためである。このとき、スバルは等長エキマニを採用した。その結果、排気干渉によるスバル車らしいボクサーサウンドがなくなってしまったのだ。
ただ、その後、厳しくなる燃費性能や排ガス規制などの変化によって、新たな規制に対応するために、不等長エキマニが再び採用されるようになり、ボクサーサウンドが復活した。現在、多くのスバル車に搭載されるCB18エンジンでは、不等長エキマニが採用されている。もし、ボクサーサウンドを楽しみたいのであれば、CB18エンジンが搭載されているスバル車を探してみるとよいだろう。
また、前述したスバルの名エンジンEJ20エンジンも不等長エキマニを採用している。走りもボクサーサウンドも楽しみたいのであればEJ20エンジンを搭載するクルマを探してみるのも一つの選択肢である。
ボクサーサウンドを感じられるクルマに乗って感じるべし!

水平対向エンジンは、スバルとポルシェが積極的に採用しているエンジンだ。その中でも、世界と戦える高性能な水平対向4気筒エンジンを搭載するクルマといえば、スバルが代表格である。
この水平対向4気筒エンジンの魅力を存分に楽しむことができ、心地よいボクサーサウンドを感じたいのであれば、不等長エキマニを採用している名エンジンEJ20を搭載するモデルに乗ることをおすすめする。実際に見て、乗って、自分で操ることで得られる感覚は、他では代えがたい体験となる。
EJ20エンジンを搭載するクルマでのドライブを楽しみたいという方は、EJ20エンジンが搭載されているクルマを購入するのもよいが、手が届きにくい価格になってしまっていることも珍しくない。まず乗って、その気持ちよさが自分に合うか確かめたいのであれば、多種多様なクルマを取り扱うおもしろレンタカーの利用がおすすめである。もちろん、EJ20エンジンを搭載したスバル車もラインナップされている。
この機会に、水平対向4気筒エンジンの魅力を体験してみてはいかがだろうか。