車を維持するためにはメンテナンスは必須である。メンテナンスを行う箇所はさまざまだが、動力源であるエンジンのメンテナンスは重要である。メンテナンスを怠ってエンジンに不調をきたすと、運転が気持ちよくなくなるだけでなく、最終的にはブロー(深刻な故障)を招き、修復に高額な費用がかかる場合もある。
また、長期間乗り続けたり中古車を購入した場合は、摺動部分の摩耗が進み、加速不良や排気ガスが増えるなどの症状が現れる。そうして不調をきたしてしまったエンジンを元の状態に復帰させるには“オーバーホール”が必要だ。ここではその“オーバーホール”について詳しく解説する。
エンジンのオーバーホールとは?
まずは“オーバーホール”がどんなものかを紹介していこう。
オーバーホールの定義
オーバーホールとは、不調をきたしたエンジンの主要部品を交換し、本来の調子を取り戻す作業である。この作業には部品の交換を伴うため、まず分解が必須である。
分解して不調の原因を割り出し、その原因となるパーツを交換して組み直すのが基本的な内容だ。原因によっては交換だけでなく、形状修正のために金属加工を行う場合もある。
メンテナンスメニューとの違い
エンジン関係の似たような作業に“メンテナンス”があるが、“オーバーホール”との違いは“分解作業”の有無にあると言っていいだろう。
メンテナンスとは、オイルや冷却水、スパークプラグなどの劣化消耗部品を交換したり、点火時期やタペットクリアランスなどを調整する作業のことを指し、その作業のほとんどは、シリンダーヘッドやシリンダーブロックなどエンジンの主要部分の分解を必要としないでおこなえるようになっている。
大まかに言えば、メンテナンスは軽作業でオーバーホールは重作業と言える。
オーバーホールが必要な理由
オイルや冷却水、スパークプラグなどの部品は劣化消耗が比較的早いため、年間で数回の交換が必要となっているが、それらを交換することで常に健康な状態でエンジンを稼働できる。
しかしさらに長いスパンで見ると、エンジン内で稼働している部品の摩耗や消耗が進むことで不調や不具合が発生する。それを解消するためにオーバーホールが必要となる。
通常使用での摩耗や劣化の場合
通常使用でオーバーホールが必要な状態になるのは走行距離が長いケースが一般的。以前は10万㎞が目安と言われていたが、コーティング技術の発達やオイルの品質向上により、10万㎞を大きく超えても不調が発生しない場合も増えている。
エンジン内部ではカムシャフトやバルブ、ピストン、コンロッド、クランクシャフトなどの部品が組み合わさり高速で稼働しており、それぞれのパーツが接している部分ではわずかずつ摩耗が発生している。
その摩耗が一定量を超えるとパーツ同士のすき間が広がって、気密性が保てなくなったり、ガタが大きくなって異音が発生したりするようになる。不具合が発生しても多少なら問題なく走行できるが、そのまま乗り続けるとパーツが削れ稼働に支障をきたしたり、焼き付いて稼働不能になることがある。
イレギュラーなトラブルの場合
摩耗の他にも、オイル管理に問題があったり、何らかの要因でオーバーヒートさせたり、サーキットなどで全開走行を繰り返したりすると、普段の走行時よりもエンジンの稼働部品に大きな負荷がかかる場合がある。
通常はオイルがそれを防ぐが、オイルの能力を超える負荷やオイル自体の劣化によって本来の性能が発揮できない場合、パーツが負荷に耐えられず破損することがある。それは中・高回転での稼働時に起こるケースが多いため、破損の被害が大きくなり、エンジンブローとなる可能性が高い。
オーバーホールの主なメニュー
エンジンのオーバーホールをおこなう際にどのようなメニューになるのかを、パートごとに見ていこう。
シリンダーヘッド・パート
シリンダーヘッド内部では、カムシャフトやバルブが稼働して吸排気のコントロールをおこなっている。
カムシャフト
カムシャフトにはバルブを開閉する役割があり、軸受け部とカムを押す部分に強い圧が掛かっている。
接触部は十分な面積が取られているため、多くのエンジンでは10万㎞程度では問題となる摩耗は発生しないが、オイル管理が不十分だと焼き付きや偏摩耗が発生することもある。継続使用ができない状態なら交換となる。
バルブまわり
バルブは燃焼室の吸排気ポートを塞いだり開いたりするのが役割。バネの力で傘の部分が燃焼室のポートのフチに押し付けられて密閉しているが、カムシャフトが回転することで押し下げられてポートを開くようになっている。
摩耗が発生するのは主に二か所であり、一つはバルブの軸を保持して正確な往復を確保している“バルブガイド”部である。バルブ往復時の摺道摩擦で摩耗し、それが進行すると密閉性能が下がって燃焼圧力が漏れたりオイルにじみが増えたりする。
もう一つは“バルブシート(リング)”部分である。ここには密着性の確保とバルブが当たった際のショックを吸収させるために柔らかめの金属が使用されている。
異物やカーボンを噛み込んだり、ステムシールの摩耗でガタが増え偏摩耗が発生すると燃焼圧力が逃げ、出力低下を招く。また、燃焼の熱を逃がせず部分過熱によるトラブルを招くこともある。
ヘッドブロック
シリンダーヘッドのブロックは、カムシャフトやバルブ関係のパーツを保持する役割があり、それらの正確な稼働を支えている。ブロック自体で摩耗する部分は少ないが、オーバーヒートを起こすとその熱で変形し不具合を招く場合がある。
腰下(=シリンダー&クランクケース内部)パート
“腰下”と呼ばれるシリンダーブロック以下の部分には、ピストン、コンロッド、クランクシャフトなど、燃焼の力を駆動に変える部品が収まっている。
クランクシャフト
クランクシャフトは燃焼の力を回転に換える部分で、ピストンとコンロッドが往復する際の負荷を回転しながら受け止めている。摩耗が発生するのはその軸受け部分だ。
ここには“クランクメタル”という専用の部品が使われており、オイルを保持して摩耗を防いでいるが、1分間に数千回転しているため、わずかずつ摩耗している。摩耗が進むとガタが発生し、振動が生じるようになる。
ピストン
ピストンはシリンダー(筒)の内部を往復して燃焼の力を(コンロッドを介して)クランクシャフトに伝えるのが役割。エンジン稼働部品の中で最も高熱と摩擦にさらされているパーツである。
ピストン自体は通常オイルの膜で“浮いて”いる状態なので、思ったほど摩耗は進行しないが、燃焼ガスの圧力を逃さぬように受け止めている“ピストンリング”は常にシリンダー内壁に押し付けられているため、リングとシリンダー壁に摩耗が発生する。
摩耗が進むとリングの気密性が落ちて燃焼の圧力が低下するため出力に影響が出るうえ、オイルが燃焼室に漏れ出し排気が黒煙を多く含むようになる。
その他周辺部分
エンジンの主要部分以外にも摩耗や劣化が進む部分があるので、それらの交換整備も必要になる。例えば、オイルポンプやウォーターポンプはエンジンとともに回転しているため、摩耗による交換時期が設定されている。
オーバーホールの費用
エンジンオーバーホールは、車両の維持において重要な作業の一つだが、その費用は作業内容や車種によって大きく異なる。ここでは、オーバーホールの費用について、シリンダーヘッドや腰下の部品交換の費用を中心に解説し、どの程度の費用が掛かるのかを紹介していく。
シリンダーヘッドの場合
シリンダーヘッドのオーバーホールで交換する主な部品は以下の通りである。
- バルブステム
- バルブシート
- チェーンテンショナー
- ガスケットなどのショートパーツ
それらの部品代は、4気筒DOHCの場合7〜10万円である。そして、それらのパーツをシリンダーヘッドに正しく組み付けるためには金属加工が必要になり、その費用は10〜20万円が目安。
また、オーバーヒートなどでヘッドの歪みが出ている場合は修整する必要があるので、その加工費用は2〜4万円程度である。
腰下の主なメニュー
腰下の主な交換パーツは以下の通りである。
- ピストンリング(場合によりピストンとセットで交換)
- コンロッド&クランクメタル
- オイルポンプ
- ウォーターポンプ
- オイルシール/ガスケット類・その他ショートパーツ
それらの部品代は、4気筒DOHCの場合7〜10万円である。ピストンを含める場合はプラス4万円程度。腰下のパーツの組み付けには、バランス調整やクリアランス調整など専門の作業とノウハウが必要であり、その費用は別途10万円以上掛かる。
摩耗がシリンダーの使用限界を超えている場合はピストン(オーバーサイズ)の交換とともに、各気筒ごとにボーリング作業が必要のため、その作業の費用は4万円程度である。
その他の費用
上では腰上と腰下で費用を分けて紹介しているが、エンジン1機のオーバーホールには、分解と組み付けの工賃も必要になる。その費用が上記とは別に10万円以上掛かる。
そしてそれらをザックリ合計すると、最も軽いメニューの場合は約40万円程度であり、最もハードなメニューでは70万円以上掛かる場合がある。
要オーバーホールの兆候を知る
先にも述べたが、一昔前までは10万㎞がオーバーホール時期の目安とされていた。しかし、機械加工やコーティングの技術が向上し、素材の品質も上がっていることなどから、今どきのエンジンは10万㎞くらいは軽く走ってしまうという見方ができるようになっている。
とは言っても、使い方や整備の具合によってその時期には大きく違いが生じてくるので、ここでは使用していて感じられるオーバーホールの兆候を紹介しよう。
煙が多く出るようになる
気がつけばマフラーから煙が多く出るようになった、というのは最も分かりやすいオーバーホールの兆候である。シリンダーヘッドのバルブステムの摩耗でオイルが漏れるようになると、そのオイルが排気ガスと一緒に排出されるようになる。これがいわゆる“オイル下がり”という状態である。
その場合は加速時に白い煙が出る傾向があるが、冷寒時のアイドリング時に出る白煙とは種類が異なるので注意が必要である。見分け方としては、エンジンを吹かしてマフラーの出口に手をかざしたときにオイルの粘りを感じた場合、“オイル下がり”の可能性が濃厚である。
また、加速時に黒い煙が出る場合は、ピストンリングの摩耗によってオイルが燃焼室に漏れ出し、それが混合気と一緒に燃えてススになっていることが主な原因である。煙以外でも、振動や異音としてその兆候が現れる場合もある。
クランクのメタルに摩耗が出ると、わずかに回転のムラが発生するので、回転が高くなってそのムラが増幅されて振動や異音として伝わるというケースもある。また、以前より加速が弱くなったと感じたり、燃費が悪化したという症状として現れることもある。それが顕著に表れる場合は、オーバーホールを検討するべきである。
ちなみに、エンジンによっては組み付け済みの“エンジンASSY(丸ごと)”で購入した方が安価で済む場合もあり、リビルト(再生)エンジンがあればさらに安価で購入できる。そのため、オーバーホールの見積もり次第ではそちらを選ぶのも選択肢の一つである。
エンジンオーバーホールを検討している場合、その必要性や費用について正確に把握することが重要である。しかし、オーバーホールが本当に必要かどうかや、その効果を事前に体感することは容易ではない。
そこでおすすめなのが「おもしろレンタカー」の利用である。オーバーホール済みのエンジンを搭載した車両をレンタルすることで、実際の走行性能を確かめることが可能である。購入やメンテナンスの検討材料として、ぜひ活用してほしい。