内燃機関を搭載するクルマには、変速機(トランスミッション)が搭載されている。搭載されるトランスミッションは、モデルによって異なるだけでなく、同じ車種でもグレードによってトランスミッションの種類が違う場合もある。では、多くのクルマに搭載されるオートマチックトランスミッションには、どのようなタイプがあるのだろうか。
今回は、オートマチックトランスミッションに焦点を当て、AT(一般的なオートマチックトランスミッションのトルクコンバーター式オートマチックトランスミッション)、セミオートマ(AMT)、欧州車を中心に採用されているDCT(デュアルクラッチトランスミッション)の特徴やメリット・デメリットなどを解説する。
自動で変速するトランスミッション全般を示す「AT」

オートマチックトランスミッションを意味する「AT」は、自動でギアを変えたりクラッチ操作をおこなったりする「自動変速機」を指す。そのため、トルクコンバーター式オートマチックトランスミッション(いわゆるトルコンAT)、セミオートマチックトランスミッション(AMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)など、すべてのオートマチックトランスミッションの総称が「AT」となる。
オートマチックトランスミッションは一言でまとめられるが、その種類は多種多様だ。ここからは、オートマチックトランスミッションの種類ごとに特徴やメリット・デメリットを解説する。
定番のトルクコンバーター式オートマチックトランスミッション

一般的に「AT」といえば、トルクコンバーター式オートマチックトランスミッションを指すことが多い。トルクコンバーター式オートマチックトランスミッションは、さまざまなモデルに採用されているだけでなく、広く普及していることから、オートマチックトランスミッション(AT)=トルクコンバーター式オートマチックトランスミッション(トルコンAT)を指すことが一般的となった。
トルコンATは、流体クラッチを介して動力をタイヤに伝達するトランスミッションである。トルコンATは、滑らかな発進が特徴であるものの、ダイレクト感が損なわれ、パワーロスが発生するという難点がある。
しかし、近年ではクラッチを直結させる「ロックアップ」機構の採用によりダイレクト感ある走りが可能となり、パワーロスも低減している。また、多段化も進んでおり、10速ATとなっているモデルもある。ギアが多段化されると、効率の良い走りができるため、静粛性が向上し、燃費性能が改善するなどのメリットがある。
昔ながらのトランスミッションと思われがちなトルコンATは、現在も進化を続けており、過去の欠点はほぼ解消されている。滑らかでありながらダイレクト感ある走りも同時に楽しみたいのであれば、ロックアップ機構付きトルコンATのクルマを選ぶとよいだろう。
AT限定免許で運転可能なMT構造のセミオートマチックトランスミッション(AMT)

セミオートマ(AMT)は、構造そのものはMT車と同じであるものの、クラッチ操作を自動化しているトランスミッションだ。そのため、セミオートマ(AMT)であれば、AT限定免許でも運転できる。
基本的な構造がシングルクラッチのMT車と同じであるセミオートマ(AMT)は、クラッチ操作を自動で行ってくれるだけでなく、ギアの選択が自動となっているため、AT車のDレンジと同じ操作でマニュアル車のような運転が楽しめる。また、ギアの選択を自分で行うこともできるため、速度や状況に応じたギアを任意に選べるのもセミオートマ(AMT)の特徴だ。
ただし、クラッチ操作が自動化されたトランスミッションとなっているため、変速時のショックを感じることがある。加えて、極低速時や加速時にギクシャクする傾向があるのもセミオートマ(AMT)のデメリットである。
セミオートマ(AMT)は、運転に慣れが必要なトランスミッションである。
2系統のクラッチで瞬時に変速するDCT

デュアルクラッチトランスミッション(DCT)は、欧州車やスポーツモデルなどに搭載されることが多いトランスミッションだ。デュアルクラッチトランスミッションは、その名のとおりクラッチが2系統となっているため、素早いシフトチェンジが可能となっている。
DCTのクラッチは、奇数ギアと偶数ギアの2系統となっており、1速で走行しているときに、2速がスタンバイしており、2速にシフトチェンジすると、3速がスタンバイするという構造だ。そのため、小気味良い加速感を楽しむことができる。このDCTならではの小気味よい加速は、0.1秒前後でシフトチェンジできるDCTだからこそ実現している。
また、日本を代表するスーパーカーとしても知られるGT-R(R35)では、シフトチェンジの時間短縮とシフトミスによるエンジンの故障を避けるためにDCTを採用している。
ただし、DCTもクラッチを介して動力を伝える構造となっているため、極低速時にギクシャクしたり、クラッチの接続と切断が繰り返されるため、低速走行時に運転しづらさを感じる場合がある。
しかし、DCTの技術やノウハウが蓄積された現在では、こうしたネガティブな挙動が徐々に改善されている。よって、DCTのギクシャク感やぎこちなさは、少しずつなくなってきていると言えるだろう。
トランスミッションの種類によって走行フィールは異なる

ここまで、オートマチックトランスミッションの種類ごとの特徴やメリット・デメリットを解説してきたが、オートマチックトランスミッションのタイプ別の走行フィールをまとめると次のとおりとなる。
- トルクコンバーター式オートマチックトランスミッション:変速ショックが少なくスムーズな走りで快適性が高い。かつてのトルコンATにあったダイレクト感の希薄さやパワーロスなどはなくなりつつある
- セミオートマ(AMT):シングルクラッチのMT車と同じ構造を持つセミオートマ(AMT)は、トルコンATに比べて変速ショックが大きい。運転および扱いに慣れるまで時間を要する場合がある。ただし基本構造がMT車と同じであるため、アクセル操作に対するレスポンスは良好である
- デュアルクラッチトランスミッション(DCT):2系統のクラッチにより素早い変速ができる。小気味良い変速と加速感を楽しめる。かつては低速走行時などにギクシャクしたり急なクラッチミートで飛び出るような動きがあったりしたが、近年は技術の進歩により改善されつつある
上記のような特徴があるため、どのような運転感覚を求めるのかによって選択するオートマチックトランスミッションが変わるといえるだろう。
オートマチックトランスミッションでありながら走りの楽しさを求めるのであれば、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)または、ロックアップ機構付きトルクコンバーター式オートマチックトランスミッション(ロックアップ機構付トルコンAT)がおすすめだ。
一方、上質感ある走り、スムーズさ・快適性で選ぶのであれば、トルクコンバーター式オートマチックトランスミッションがよいと言えるだろう。また、変速ショックのないシームレスな加速を求めるのであれば、CVTという選択肢もある。
このように、オートマチック車の走りにどのようなことを期待するかでオートマチックトランスミッションの選択も変わるのだ。
AT限定免許でも運転を楽しめる!

オートマチックトランスミッションは「AT車」とひと括りにされがちだが、進化を続けている。また、さまざまなオートマチックトランスミッションの中から、メーカーがそのモデルの特徴に合わせてオートマチックトランスミッションを選んで載せている。
そのため、走行性能を重視するならMT車が推奨されることもあるが、現在ではATでも十分に走りを楽しめる。また、トランスミッションごとの特徴を理解すれば、そのクルマの特性や扱い方をより深く理解できる。
クルマを選ぶ際は、デザインや居住性・快適性、使い勝手の良さに加えて、オートマチックトランスミッションの種類にも注目すると、より満足できる一台を選べるだろう。
オートマチックトランスミッションの種類によって、走行フィールやドライビングの楽しさが大きく異なる。トルクコンバーターATの滑らかさ、DCTの素早いシフトチェンジ、AMTの独特なフィーリングなど、それぞれに魅力がある。しかし、実際に運転してみなければ、その違いを体感することは難しい。「おもしろレンタカー」では、多様なトランスミッションを搭載した車両をレンタルできるため、自分に合ったドライブフィールを確かめる絶好の機会となる。