ミニマムな車体にアバルトの手によるホットな性能が詰め込まれ、羊の皮を被ったオオカミならぬ、サソリの魂を宿したネズミと言える唯一無二のキャラクターを持つ「アバルト595」。
ここでは、そのパワートレーンに注目し、詳しく掘り下げてみよう。
アバルト595のエンジンバリエーションとスペック
アバルト595シリーズのエンジンバリエーションと出力は以下のような構成となっている。
- ベースグレード(前期):1368 cc 直列4気筒DOHCターボ 135ps/5500rpm
- ベースグレード(後期F595):1368 cc 直列4気筒DOHCターボ165ps/5500rpm
- ツーリズモ/コンペティツィオーネ:1368 cc 直列4気筒DOHCターボ180ps/5500rpm
- 特別・限定モデル:1368 cc 直列4気筒DOHCターボ 160〜180ps/5500rpm
- 最高性能モデル(ビポストなど):1368 cc 直列4気筒DOHCターボ 190ps/5750rpm
10年以上続く長いモデルサイクルの中で、初期のアバルト500から現行のアバルト695(ツーリズモ/コンペティツィオーネ)までは、出力に45psの差がある。ベースグレードも初期の500/595では135psだったのに対して、現行のF595では165psにまで向上している。
上位モデルの695では、初期にリリースされた「トリブート・フェラーリ」で既に180psを発生していた。その後の特別モデルでは、キャラクターに応じて160ps版と180ps版の2タイプが使い分けられていた。
シリーズ中の最高出力は「695ビポスト」の190psで、これは競技向けの「アセットコルサ」の公道版という内容のモデル。最高出力発生回転数は高く、トルクも27.5kgmと大幅に向上している。
「アバルト595」は、2007年に復活した「フィアット・500(チンクエ・チェント)」をベースにモディファイをおこなったホットモデル。往年の「チンク」の「サソリ」バージョンの復活とあってイタリア車好き界隈には大きな話題を呼んだ。 発[…]
直列4気筒1.4リットル・ターボ・エンジンのポテンシャル
アバルト595シリーズに搭載されるエンジンは「T-JET」と呼ばれる1368 ccの直列4気筒DOHCユニットで、ターボの過給によって、排気量以上のパワーとトルクを引き出している。
エンジンの特性と特色
現行の上位モデルである695ツーリズモ/コンペティツィオーネに搭載されるエンジンは、180psを5500rpmで発生している。市販車に搭載される1.5リットル以下のターボエンジンとしては、最高水準のパワーとトルクを発生させており、さすがアバルトといえる性能だ。
仕様により出力には最大で55psの差があるが、エンジン自体の基本的な構成はほぼ同一である。出力の違いはアクチュエーターとECUでのブースト圧変更や、ターボユニットの変更が主な要素で、その要求に応じて吸排気系やインタークーラーなどの冷却系、点火系の変更も行われている。
また、可変機構を備えた「レコードモンツァ」マフラーの迫力のある音との相乗効果で、想像以上の加速感が味わえるという声も多く聞こえてくる。
最大トルクは2000rpm付近で発生するため、街乗りでトルク不足が気になる心配はほとんどないだろう。高出力エンジンとしては、低回転域でも十分に健闘している。
ダウンサイジングターボとの違い
環境問題が開発の主題となっている昨今では、この排気量クラスのターボエンジンと言えば「ダウンサイジング・ターボ」と呼ばれる燃費性能を高めるためのターボエンジンが主流だ。
しかし、この595シリーズに搭載されている「T-JET」エンジンは、実用設計のエンジンをベースに、パワーを追求する設計が加えられており、燃費は二の次で出力性能を重視したものとなっている。
燃費はWLTCモードで13〜14km/lと、出力や設計を考えれば悪くない数字だが、実燃費は日常使いで7km/l台になることもあるため、過度な期待はしないほうが良いだろう。
エンジンチューニングの可能性
サーキットで走りを楽しんだり同じ車両を持つオーナーたちと差をつけたいなど、さらなる性能を求める場合のチューニングのプランを考えてみる。
主なチューニングメニューと出力向上度合い
ファクトリーから既に190psまでのモデルがリリースされているため、ベースグレードでも費用を掛ければ、少なくともそのレベルまではチューニングで引き上げることが可能だ。
それ以上のパワー向上となると、かなり大がかりなモディファイが必要となってくる。まずベースグレードの場合、ECUの書き換え、またはチューニングECUへの交換でブーストアップによるパワー向上が見込める。数値では20psまでは補機類の変更無しに可能と思われる。
それ以上になると発熱などの問題が出てくるので、インタークーラーなど補機類の変更が必要になる。タービンの交換で200psオーバーも狙えるが、エンジン本体へ手を入れる必要も出てくるため、費用は段違いに高くなるだろう。
チューニングによるデメリット
先述のように、純正の180ps程度までの範囲内であれば、耐久性低下のリスクをそれほど気にせず出力向上を楽しめるが、それ以上になると耐久性やメンテナンスの頻度、費用に影響が及ぶだろう。
また、チューニングの内容によっては出力特性が大きく変化する可能性があり、せっかく低回転から実用トルクが発揮されているのに、それを損なってしまう恐れもあるため注意が必要だ。
アバルト595は、そのコンパクトな外観からは想像できないほどのパフォーマンスを秘めたホットハッチとして、多くのファンに支持されている。しかし、この特異なモデルには、購入前にしっかりと考慮すべきポイントもいくつかある。 この記事では、[…]
エンジンチューニングを勧められる人
アバルト595のエンジンチューニングは、性能向上を楽しみたい人にとって魅力的な選択肢である。
ここでは、どのような人がエンジンチューニングを行うべきか、その理由やチューニングを勧められる人について詳しく紹介していく。
ネズミの皮を被ったサソリを極めたい人
ツルシの状態で市販車では最高クラスの出力性能を発揮するエンジンに不満や不足を感じるという人はかなり限られるだろう。例えば、サーキットでラップタイムを縮めたいと考えている場合や、本格的なスポーツカーを追い抜くことに喜びを感じる人、あるいは単純に、より鋭い加速を求めてやまない人など。
耐久性や実用性を犠牲にしても性能の向上を求める人は、その点を覚悟すれば、唯一無二の小さなサソリに仕立てることができる。
速いコンパクトハッチを楽しみたい人
ベースのフィアット500ではなく、あえてアバルト595シリーズを選ぶという人は、そのキャラクターに惚れた人が大半だと思われる。5ナンバーサイズにすっぽり収まるコンパクトなボディに、クラス最高レベルの出力性能を発揮するエンジンを搭載し、それを支える足まわりとブレーキシステムを備えたこのホットなマシンは、高速道路を含めた公道で、後れを取ることはほとんどないパフォーマンスを発揮する。
その特性をさらに自分の好みに仕立てるためのチューニングをおこなえば、気に入ったアバルトがもっと手足のような存在になってくれるだろう。 今では、このアバルト595のような硬派な走りのポテンシャルを備えたコンパクトなクルマは希少な存在となっている。
走り好きなら一度はこのコンパクトハッチ最高レベルの性能を秘めたアバルト595に乗ってみて、その走りの魅力を実感して欲しい。試乗するなら、じっくりとドライビングを堪能できる「おもしろレンタカー」を利用するのがおすすめだ。